No.91 彼女なら

悪魔。

それは100年前までは普通に見かけていたものだった。

人間のような形をしたものもいれば、ゴブリンのように醜い姿のようなものもいた。

そんな悪魔たちは人間を脅かし、時には怯えた人間を契約させるといったこともあった。

契約を交わした人間のほとんどが魔王の手下となってしまった。


僕からすれば悪魔が魔界からのスカウターに見えて仕方ないのだけれど。


でも、スカウターの悪魔たちは100年前の戦争で倒された。

フレイ王子の曾祖父にあたる当時のウィンフィールド国国王によって魔王はおろかその他の手下どもを全て倒していった。


でも、そんな魔王の手下の力を抑える魔法がここで使われている。

その意味は僕にだって分かる。



































悪魔が力を取り戻している。

それを意味していることぐらいは。




「なんで、女王様がそんな魔法を使っているのですか??」




女王の手の甲で光るその魔法陣は忌々しく見えた。




「私ね……小さい頃に悪魔にあったの」




女王は弱々しく話す。




「そしたら、いつの間にか自分の意識のある時間が減って……今じゃあ、ほとんど悪魔の意識の時間が長いと思う」


「……それって乗っ取られたってことですか??」


「そうよ。一時的に抑えることしかできない私は時間がないの。私の力は弱まって、悪魔の力は強くなっているから、私の意識が表面化できるのは今回だけかもしれない」




女王は真剣な表情で僕に必死に訴える。




「だからね……悪魔の意識に戻った私を殺してほしいの」


「えっ??」




太陽が雲に隠れたのか窓の日の差し込みが徐々に少なくなり、若干部屋が暗くなる。

笑みを見せようとする女王は無理に口角を上げているのか引きつっていた。




「あなたたちがこの反人間派の島から脱出した後、人間の魔導士たちに私を殺すようにしてほしいの。もちろん、あなたたちは無事に脱出させるわ」


「でも……」


「私を悪魔ごと葬って。そしたら、妖精界にも平和が訪れるはずだから」


「他に方法はないんですか??」




僕がそう言うと女王はニコリと笑うだけ。

僕はその笑顔の裏に何かが隠されていることぐらい分かった。


今まで見てきた女王様は本当の女王様じゃなかった。

見てきたのは悪魔に乗っ取られた女王様だったんだ。


僕が衝撃の事実についてそう考えていると、女王の魔法陣がチカチカと光り始めた。

すると、女王は僕の手を取り、玉座の前まで連れていく。




「スタンドバイミー」




女王がそう呟くと金色と赤の玉座は右に動き、そこから階段が現れた。

その階段は自分の目の前に真っすぐ下へと続いているようだった。




「この下を降りて行ったら、牢屋に行くことができるわ。あの人間の女の子も助けたら、走ってオルム島まで逃げなさい。私ができる限り時間を稼ぐわ。さぁ、早く」


「ちょっ……。えっ??」




僕は背中を押され、階段を何段か降りる。

後ろを振り返ると、女王は温かな笑顔を見せていた。




「あなたの父によろしくと伝えておいて。じゃあ、気を付けて」


「へ?? ちょっとっ?!」




僕が女王に話しかけようとしたとき、玉座は元の位置に戻っていた。

真実を知った僕は引き返そうと完全に閉じ、あたりは真っ暗になっていた。

幸い、僕はヴァンパイアの血も持つため、暗くても多少は周りが見える。


女王は自分の意思で反人間派をしていたわけではないのに。

彼女はあんなことするつもりはなかったはずなのに。


僕は親族でもある女王を助けたくて仕方なかった。


なんとかして助けたい。

でも、もう女王の所には戻れない。






























階段の下を見る。




この先にアメリア嬢がいる。


もしかしたら、怪物のごとく強く頭の回転も速い彼女なら……。




僕は暗い階段を下り、光を求めて駆け出した。

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