No.90 飛び降りて

「お前の父は元気にやっているか??」




女王はそう言うと「あ、口調はもう直していいんだったわ」と呟く。

さっきまで般若のように怖かった顔は笑みに変わっていた。


妖精の女王が人間の僕に笑っている。

これはどういうつもりなんだ……??


衝撃のあまり女王に尋ねられていたことを忘れていた僕は急いで答える。




「は、はい。おかげさまで」




緊張のあまり口がごもってしまったが、女王は気にしていないようで、僕のロープをほどき始めた。


え??




「あ、あの……。なんでロープを……」


「私には時間がないの」


「え……」




女王が僕を縛っていたロープを外すと、女王が差し伸べてきた手を取りを僕は立ち上がった。

僕が顔を上げ、女王の正面に立つと、彼女は頭を下げた。




「まず……今までのことごめんなさい」


「え??」




さっきまでの態度と違い過ぎて、僕は目をこすり見ている景色が本物か確認するが、僕の目の前にいるのは確かに頭を下げた女王だった。


一体なにがあったというんだ……??




「言い訳をするつもりはないのだけれど、あなたたち、クルス家に嫌な態度を取ったり、人間に対し嫌悪を示したりしていたことは私の意思で行っていたわけではないの」


「それはどういうことですか?? 実際に女王様が僕たちを嫌っていたではありませんか??」




先ほど会った時は確実にゴミを目にしたかのような瞳で僕を見ていた。

嫌悪丸出しの態度。


なのに今は……。




「確かに私ので行っていたのは事実。でも……」




……??


女王は会話を止めると、着用していた右手の白い手袋を外す。

そして、僕に手の甲を見せてきた。

白い肌をした右手の甲には魔法陣のようなものが描かれていた。


!!

これは……。


女王は僕の驚きの顔を見ると苦そうに笑う。




「あなたは勤勉だって聞いていたから、このマークの意味が分かるわよね」





僕はコクリと頷く。


この魔法陣を使っているのは僕自身初めて見るが、魔法陣であることは知っていた。

方法は単純だが、結構な技術がいる魔法。

この魔法は古代魔法でもないため、ある程度の人間は知っているはず。

でも、そう滅多に使うことがない。


今の時代は。



























魔王が弱っている今の時代には。




「なんで、女王様がそんな魔法を使っているのですか??」




そんな…悪魔の力を一時的に抑える魔法なんか……。


僕は女王の右手に紫色に光る魔法陣を見つめていた。




★★★★★★★★★★




「あのさ……」


「どうしたんですか、テウタさん」




反人間派の島オルム島に移動中のテウタたち。

ドラゴンに乗ってはしゃいでいるともうすぐ着くというところまで来ていた。

疲れたためテウタはドラゴンのゴツゴツの鱗の上で寝転がる。

本人は痛くもなんともない様子で頭に手を組んでいた。




「オルム島に着くのはいいんだけど、どうやって着くの?? このままいけば私たち、襲われるのよね??」


「まぁ……そういうことになりますね」




クリスタとテウタが話していると、「なになに??」と言ってしっぽの方にいたエリカが這ってやってきた。

テウタがオルム島の着地方法について説明すると、エリカが「うーん」と唸った末、こう答えてきた。




「私たちがドラゴンから飛び降りたらどうでしょう??」


「あんた、本気で言ってるの??」




テウタは正気かとでも言いたげな顔をしていた。

そんなテウタに対し、エリカは人差し指を立てて訴えてくる。




「いや、だって、この大きいドラゴンだとすぐに攻撃されちゃいます。でも、小さな私たちが飛び降りれば気づくのは遅くなりあちらが攻撃する前に私たちが先に攻撃できます!!」


「私たちが攻撃仕掛ける前提なのか……」


「そうですよ!! どうせ、アメリア様がいるサガ島に行くまでの全ての敵を倒さないといけませんから」


「そうですけど……」




苦笑いすると、クリスタは自分の手をじっと見つめていた。


すると、右手の爪が異常に伸び、右手は徐々に黒い肌になっていく。

クリスタの瞳は赤くなっていた。




「クリスタっ!! どうしたんだっ!?」




テウタが思わず上体を起こし、クリスタに声を掛ける。




「あ、心配しないでください。これは私が最近身に付けた戦闘モードなので」


「戦闘モード??」


「ええ。私はいろんな人に助けてもらってます。ですので、自分も誰かを助けれるように自分がヴァンパイアのクウォーターであることを使って、私の体の部分をヴァンパイアモードに変えれるようにいたしました」


「お、おう。凄いな……」




テウタが爪のオーラに圧倒されていると、下にはオルム島が見えていた。




「もうおりないといけないな……」


「結局、エリカさんの提案でいくのですか??」




クリスタは物騒な右手を見せつつ、ドラゴンの上で立ち上がる。




「それしかないだろうね。エリカも2種の主魔法が使えて、クリスタはヴァンパイアの能力を使える。他の男ども3人は知らないが、私もそれなりの戦闘力はあるはず」


「それなりじゃなくて怪物並みですよ」




クリスタの言葉にテウタは苦笑い。




「……まぁ、だからアメリアを助けることはきっとできるはず!! よし行くよっ!!」




テウタはドラゴンの上を走り始める。




「えっ!! 急なっ!! パラシュートもないですよっ!! どうしたらいいんですかっ!!」


「頑張って、怪我無く着地してっ!! じゃあ、先行くよっ」




そういうとテウタはドラゴンの上から飛び降りた。




「えっ?? テウタ?? 何してんのっ?!」




何も知らない男子3人、フレイ王子とハオラン、ルイはクリスタたちのところにやってきて、下に落ちていったテウタを見る。




「ドラゴンに乗ったまま行くとやられてしまいますので、私たち自身が飛び降りることにしました。では、お先に」




簡単な説明をするとクリスタは助走をつけて空へジャンプ。




「着地は各自でとテウタさんがおっしゃっていました。では」




そういってエリカも飛び降りる。




「これって……」


「……絶対アメリアさんの影響だね」


「姉さん……」




男3人は女子のメンタルの強さにドラゴンの上で圧倒されて、数分フリーズしていたのだった。

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