No.88 本物の妖精

「おい、これなんだよ。マティア」




うちは目の前の景色が本物か信じられず、隣の部屋にいるマティアに声を掛ける。


目の前に広がっていたのは青い海。

そこには海が見えるように島にはぽっかりと空いた丸い穴があった。


こんなにも綺麗な円の穴だな……。


遠くに目をやると島は続いておりここだけがあたかも誰かの手でやったように穴が空いている。

壁を壊したうちが立っている場所はまさに崖で、下を覗いてもずっと灰色の岩があるだけだった。

断崖絶壁。

壁を壊しても逃げ道がない。




「この牢獄はね、わざわざこんな崖っぷちに建ててどのような方法でも逃げ道がないように作られているのよ。檻を壊しても兵士に捕らえられ、壁を壊しても崖から真っ逆さまに落ちる。完璧な牢屋ね」


「チッ」




マティアはいつも通りの冷静さで答えた。


うちは座り込み顔を出してもう一度下の崖を覗く。

ロッククライミングごとく崖から移動しても脱出可能だが、崖の様子を見る限りそれはかなり難しそうだった。


どの道ロッククライミングなんてしてられない。

ルースが連れていかれたんだ。

早くしないと何されるか分からない。


顔を出して上の方を確認するとこの何階かある牢屋の建物の角が見える。




「ちなみにこの牢屋の上あたりに王城があるのよ」




マティアは付け足したかの用に教えてくれた。


牢屋の上に王城があるのか……。

結構特殊だな。

でも、近そうで良かった。


うちは頭を引き戻し、ベッドにドカッと座る。


連れていかれたルースはきっと女王のところに連れていかれるはず。

下手をすれば処刑台に行くのだろうけど、最初は話をもう少し聞くはずだ。

さっき聞いたルースの話からはそんなに会話もしていないようだったしな。


多分、人間嫌いな女王はルースたち家族の情報を手に入れて潰すことを考えているはず。

確証はない。

けれど、ルースたちがこの女王に頼らなかったのは事実。

ルースたちが女王を避けていたのも分かる。


だから、今は一刻も早く王城に行かないと。




「よしっ!!」




うちはパンと太ももを叩き、勢いよく立ち上がる。


前世とは違う。

ゲームの時のアメリアとも違う。

うちには魔法が使える。

バリア魔法が。


うちは両手を外に伸ばし、バリアで階段を作っていく。

少し緑色が入っている透明なバリアを上へと伸ばしていると、数秒後にパリッンとバリアがガラスのように割れ、粉々になる。




「えっ!? なんで!?」


「あとここでは通常魔法は使えません」


「先に言えよ」




うちが作った階段は砂のようになり海の方へと消えていった。


ウソだろ……。


魔法が使えないとか、反則過ぎるだろ。

ここはゲームの世界。

ちゃんとそこは魔法が使えるようにしろよ。

もう。


うちはらしくなく頭を抱え込む。


一体どうすれば……??


うちが熟考していると、うちの質問に受け答えぐらいしかしていなかったマティアが突然あることを頼んできた。




「ねぇ。アメリア、ここの壁壊せる??」


「壁??」


「そう。私とアメリアの部屋を区切っている壁よ。壊してくれない??」


「ああ、いいけど……」




そのマティアの頼み事を了承したうちは右手に拳を作り、構えることなく壁に一発かます。

すると、先ほど壊した壁とは違いすぐに壊れ、向こうの部屋で立っていたマティアが見えた。




「ありがとう」


「おう。で、なにするんだ」




壁が崩れるとマティアはすぐにうちがいる部屋の方にやってきた。

ピョンピョンのジャンプしやってくるとマティアは廊下の方を確認した。

大きい音を響かせため兵士が来ないか心配していたようだが、来る気配はなさそうだった。

敵がやってこないことを確認したマティアはこちらの方に顔を向けた。




「ここはあなたがた人間が通常使っている魔法は使えないようになっている。当然、妖精魔法も」


「だろうな」




マティアは胸に両手を当て、目を閉じる。


??

一体何を??




「確かに妖精魔法は古代魔法の1つだけれど……」




すると、マティアの背中が金色に輝き始める。


なんだ……??



































「古代魔法は他にもあるのよ」




え?


輝いていたマティアの背中には黄金の羽。

羽からはどこかで見たように金の粉が少しパラパラとはなっていた。

その様子はまさに妖精。

THE・妖精。


なんかマティアをやっと妖精と実感したかもしれない。

今までは親切なオネエとしてしか見れていなかった、正直言うと。


羽が出来上がるとマティアは羽を動かし、空中を飛ぶ。

と同時に駆け足でやってくる足音も遠くの方で聞こえた。




「あ、ヤバ。やってきてる」


「ちょっとしつれぇ~い」


「わぁっ!!」




空中を飛ぶマティアはうちの後ろにいき、うちを横抱きにする。

すると、うちの足も地面から離れ、マティアとともに浮いていた。


もう何が何だか訳が分からなくなっていたが、うちはマティアに身を任せていた。




「さぁ、いくわよ。王城へ!!!」


「おうっ!!」




その掛け声とともに暗く湿った部屋から太陽の照った明るい外へと飛び出す。

マティアは上へと昇っていき、結構な高さになると後ろを振り返った。

ここからでは小さく見えるうちが開けた穴から兵士たちがうちらに向かって何かを叫んでいた。

何もできないのか兵士たちは必死に叫ぶだけ。

そんな様子にうちとマティアは目を合わすと笑ってしまった。




「あれが王城か……」




さっきまでは見えなかった王城。

妖精の城には様々な背の高い建物が密集し、シンデレラ城のモデルとされるドイツの城ノイシュバンシュタイン城のようだった。


一度だけ行ったことがあるけど。

誰と行ったけな……??


うちが考え事していると、マティアが顔を覗き込んでいた。




「行ってもいい??」




マティアはニコッと笑う。


そうだ。

今はルースだ。

早く行かないと。




「ああ、よろしく」




すると、うちらはすぐに王城の上層部に向かって勢いよく飛んだ。

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