No.85 裏切り

花や草を踏む音は耳に入る。


綺麗な花だがうちは容赦なく踏む。


なんか可哀想だな……。

でも、今はそれどころじゃない。

マティアの家から銃声が聞こえたんだ。

あそこにはルースがいる。


うちはマティアの家に全速力で向かっていた。

来た道を引き返し、花畑を駆け抜け、森を駆け抜け、マティアの家まできた。




「!!」




マティアの家の玄関には軍服をまとった妖精たちがいた。

うちは近くの大木に身を隠し、そっと様子を見る。

その軍人のような妖精たちは妖精語らしい何かを叫ぶと、銃で鍵部分を壊し数人で扉を無理やりこじ開けた。


あいつら、うちらを追ってきたのか……??

まさか……





マティアがうちらの場所を明かしたとかは……。




「☆§¶%∇Ж!!!!」




その時、マティアの声が響き、家から光が放たれる。

軍妖精たちは魔法によって何人かは倒れていたが、全員が倒れたわけではなく、妖精の1人は何も食らっていないかのように堂々としていた。

その妖精の見た目はおっさん。

あごには整えられたひげがあり、いかにも軍人と感じた。


うちが出てアイツらを倒したいけれど……。


相手は妖精。

うちにとっては未知数の敵。

力はあのおっさん妖精よりあるとは思うが、知らない魔法を使ってきて対処できなかったらうちはすぐに捕まる。

だから、妖精魔法に詳しそうなマティアにやっつけてもらいたい。

頑張れ。


アメリアは木のかげでマティアを心中で応援する。


マティアは何度も何度も魔法を放って、妖精たちを戦闘不能にさせていたが、あのチョビ髭おっさん妖精だけは倒れるどころか、びくともしない。

しかし、おっさん妖精は攻撃もしない、仁王立ちで様子を見るだけ。


なんなんだ、あのおっさん。


うちが見る限りでは、マティアはかなり高度な魔法を使っている。

しかも、水や光、草などジャンルを問わず魔法を操り、おっさん妖精に向かってかなりの量の攻撃を与えているはず。

なのにうんともすんともしないおっさん妖精。


じっとマティアとおっさん妖精の戦いの様子を見ていて我慢しきれなくなったうちが飛び出そうとしたとき、おっさん妖精がすっとマティアのいる方向に右手を伸ばした。


??


すると、家の中から攻撃をしていたマティアの体がすぃーっとおっさん妖精の方に近づき、おっさん妖精がマティアの首を掴んでいた。




「なっ!」




首を掴まれたマティアはおっさん妖精の手を外そうとするが、外れず息苦しそうにもがいていた。

おっさん妖精はその様子を見て笑う。


クソっ!!


うちは飛び出し、マティアとおっさん妖精の元へ向かう。

幸い、他の妖精たちはマティアの魔法によって倒され、襲われることもなかった。

走りながらうちは背中に所持していたバッドを手に持つ。


これでもくらえっ!!


おっさん妖精の後ろまで来たうちはバッドを振りかざす。




「う゛うぅっ!!!!」




マティアがこちらに気づいたのか、苦しさのあまり涙を流す瞳でこちらを見ていた。


今、助けるからなっ!!

死ぬなよっ!!


その瞬間、マティアの目は見開き、私の真後ろを見ていた。

その目は必死に何かを訴えてくる。


??

なんだ??


うちはその数秒間の間で後ろをちらりと見る。








































そこにはさっきまで隣で朝食を取っていたルースが手に持つ注射器をこちらに向けていた。




「ルース??」




うちは衝撃のあまり動きを止めてしまう。

その瞬間にルースはうちの首元に注射器をぐさり。




つっ!!




うちの首もとには電気のように痛みが走り、体が動けなくなる。


え??

また、このパターン??


全身に力が入らなくなったうちはすっと崩れ落ち、地面に這いつくばる。

玄関の前で地面が木だったため、勢いよく打ったあごにも痛みを感じた。

うちは必死に意識を保ち、上を見る。

そこにはうちを見下ろすルース。

ルースの目には何も感じず、死んでいるようだった。




「な、なんで、ルース」




理解できない。

ルースがこんなことをしているのか。

てか、さっきまでお前も妖精に追われていたじゃないか。

まさか、裏切ったのか……??

お前、妖精語を話せるからうちらの居場所を明かして、自分だけ助かろうとしているのか……??




「そ、そんなの……」




徐々に意識が薄れていく。

首も上がらなくなり、ルースも見れなくなってゆく。




クソっ。

後ろをもう少し警戒しておくんだった。




「ご苦労だった」



そのおっさん妖精の声を聞くとうちの意識は完全に途切れた。

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