No.76 逃走中

「ここが妖精の街か……」


「アメリアは前に行ったところ以外の妖精の島に行ったこともないもんね」


「ああ、それにしても街の雰囲気は人間界と変わらないな」




うちとルースは長い道を経て森から脱出すると、街に来ていた。

その街は人間界の城下町と似ており、うちは前世のヨーロッパの街を思い出した。

街の様子をじっくり眺めていると、ルースはある出店の所にとことこと歩いていく。

ルースはそのお店のおっさん妖精に話しかけた。




「○◆%☆§×??」




うちには全く理解できないが、ルースがおっさんに何か尋ねているのが分かった。

そのルースの質問?? に対し、おっさん妖精はにこやかに答える。




「¶ΔΘΠ〇#■」




そうして、訳の分からない妖精語を数分聞いていると、話が終わったのかルースは頭を下げ、お礼的な何かを言った。


場所を訪ねていたんだろうけど、なんて言ってたんだろ……??


気になったうちはルースの隣まで行き肩をちょんちょんと叩く。

ルースは察したのかうちに説明してくれた。



「おい、ルース。あのおっさんはなんて言ったんだ??」


「この島のことを教えてくれたんだ。この道を真っすぐ行って進んだらドラゴンがいるらしいって……」




突然話を止めたルース。

隣で腕を組んで話を聞いていたうちはルースが向いている方向に目をやる。

そこにはさっきまで笑顔だった妖精のおっさんが椅子から立っていた。

目が飛び出しそうな驚いた顔で。




「え??」




怯えたおっさんは後ずさりしながらうちらのことを指さす。

そして、おっさんは……




「Θ※δЖ∇*◆!!??」




と訳分からないが、何かを叫んでいた。

その時、何を言っていたか分かったであろうルースはビクッと体を震わせた。

ルースの表情からはなんだか危機感と焦りが見えた。




「ルース!! あのおっさんなんて言ったんだっ!?」


「アメリア、早く逃げよう……じゃないと……」




ルースがそう言った瞬間、うちは周囲からとてつもない視線を感じた。

気になって、後ろや横を見ると、街にいた全員の妖精がこちらを見ていた。

その目からは敵を見ているかのように感じる。


なんでそんな目を向ける??

一体、うちらが何をしたというんだ??

なにもしてへんぞっ!!


うちが自分の行動を思い返していると、突然妖精のお兄さんが木の棒を持って走ってきた。

そのお兄さんは構えの態勢であり、完全にうちらのことを狙っているのが分かった。




「アメリア、逃げよう!!」




ルースはうちの手首を取りもと来た道へ走り出す。




「おい!! あっちにはドラゴンがいるのだろっ!! だったら、あっち側に逃げた方が……」


「反対側には街がずっと続いているんだ。妖精がいっぱいる。あっちに走り出したってに捕まるだけだ」




木の棒を持ったお兄さんから一撃をくらいそうだったので、アメリアは走りつつバリアを張った。

案の定お兄さんはバリアに気づかず、豪快にぶつかる。

でも、その背後から体の大きい妖精が現れバリアを割られた。


……。

妖精強っ。


うちは諦めず何度もバリアを張る。

それでも、お相撲さん体型の妖精は何もなかったようにスイスイと割っていく。


クソっ!!

妖精がこんなに強いって聞いてねーよ。


と後ろを向きつつ走っていると、いつの間にか森に入っていた。

それでも、妖精は追いかけて来ており、うちは時間稼ぎにという思いで厚さ約50㎝のバリア……いや、壁を作る。

さすがに、お相撲さん妖精もそれは安易には割ることができず、苦戦していた。


それでも、ちょっとしか時間が稼げないか……。


妖精たちの様子を見ると、アメリアは前を向きルースとともに森の奥へと逃げていった。




★★★★★★★★★★




走ること数分。

アメリアとルースは草などをかき分けながら森の中を走っていると追いかけていた妖精たちがあの分厚いバリアを張ってからやってこなくなっていたことに気づいた。

それでも、さっきいた古びた遺跡のところに着くまで走っていたのだが……。




「こんなところになんで家なんかがあるんだ??」




うちとルースはある一軒の木の家の前で止まっていた。

その家はログハウスで、家の前には色とりどりのお花がたくさん植えられていた。




「さぁ……。てか、さっき来た道を進んでいたのだけれど……」


「お前、道を間違えたんだろ」


「かも……」




うちとルースが話していると、ログハウスのドアが開いた。


うちはなぜか先ほど使わなかった手元にあるバットを構える。

警戒をしていると、ドアの向こうから綺麗な女性が現れた。

透明な白い肌に白い髪。

これまで出会った女性の中で最も美しいと思える妖精だった。

その妖精は庭に来るなり、花たちに魔法で華麗に水を撒く。

うちらがその様子に見とれて、目を向けているとその美しい妖精とパチッと目が合った。




「1人じゃない……??」



驚いている妖精はそう呟いた。


































へ??


もちろん、妖精の言った言葉が気になったが、それよりもうちは声の方に意識が持っていかれた。


男の声??


妖精の声はアルトの低い声で、とてもあの美しい妖精が言っているようには思えなかった。

アメリアがその妖精の声に気を取られていると、妖精は自分たちの目の前に来ていた。

女妖精はルースの前に立つ。































「あなたはルース・クルスね……」




女妖精はまたそっと低い声で呟く。




この妖精、ルースを知ってんのか……??




アメリアは完全にその場でフリーズしていた。

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