No.58 スローフラワーリング

「…………テウタ」





以前はよく敵として見かけていたそいつは私が現れることを予想してなかったような驚きの顔を見せていた。

ナイル……そいつは私、テウタにとって厄介な敵であった。

私たちが隙をみせているうちにそこをスルっと通り抜けるかのように奴隷貿易の手伝いをしていた。

まぁ、それはデビュー前の話だが。

私はてっきりナイルが手を洗い、アイドル活動に専念しているかと考えていた。

でも、それは今回のことで違うことが分かった。

だって、現にアメリアやエリカを捕えているのだから。





「どうも。まぁ、さっそくなんだけど……」





私はそう言いつつ、ヤードからジャンプしエリカのところまで下りた。





「このお嬢ちゃんを解放してアメリアの居場所教えてくれない?分かってるでしょ?私の方が強いってこと」


「まぁ、僕一人ならね」





私は両手に2つの短剣の相棒を構え、ナイルは近くに置いておいた片手剣レイピアを持つ。

右から足音が聞こえたため目を右にやると手下と思われるものがぞろぞろとやってきているのが分かった。





「でも、私も1人じゃないんで」


「テウタさん……、どこから行ってんです?」


「なにっ!?」





やっときたと思ったら、ナイルの後ろから王子さんがやってきていた。

またまた突然現れた敵にナイルは驚き私と王子さんを交互に見ていた。


王子さん……。

まぁ、確かに置いて行ったのは悪かったんだけど、

王子のあなたが前線に出てくるのはちょっと……。

私の部下がいるんだし。


と私が気がかりそうな目で王子さんを見ていると王子さんは「バカにするな」とでも言いたそうな目で返してきた。


そんな目をするなら王子さんが死んでも仕方ないな、うん。


部下もやってきてナイルの手下どもと戦っていたので気を持ち直し、ナイルを責めることにした。




「それで……、アメリアをどこやった?記憶を消すってどういうことだ」





すると、ナイルは剣を持っていない左手を上げ、肩をすくめていた。

そして、王子さんに体を向ける。




「そのまんまの通りだよ。そして、記憶を消したアメリア嬢は別の男と婚約し結婚する」


「何だってっ!!」





アメリアは今王子さんと婚約していると聞いていた。

きっと、愛のないものだろうと予測はしていたし実際そうだった。

でも、別にアメリアはそれが苦痛そうはしてなかったし(実際は知らないが)、私が感じる限りには人生をなんだかんだ楽しんでそうに見えた。

でも、記憶を消されて人形のように扱われることはきっと望まない。





「もう少ししたら、アメリア嬢の記憶もすっからかんなんじゃない?」





嘲笑の色を浮かべるナイルは私たちを完全に挑発していた。

それを無視して冷静に考えればいいことは分かってる。

分かってるんだけれど……。





「おいい゛ぃーーー!!!!ふざけんなよっ!!!」





怒りに任せた私の体には何かエネルギーのようなものが流れている。

そう感じた。

左手に持つ短剣をナイルに向け、エネルギーをそこに集中させる。

























私を部下を助けてくれたアメリアを助けないとっ!!!!

アメリアの記憶をなくさせるにはいかないっ!!!





「おまえ゛えぇっーーー!!!!」





気づけば私は短剣から水の刃を放っていた。

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