No.35 自由に生きること

時間を遡ってトマスからデュエルを申し込まれた日の16時。

うちは人があまり寄ることのないサンディの小屋の前に来ていた。

あの令嬢を待っていたが、様子が気になって小屋の中を覗くとスヤスヤとサンディは眠っていた。


「サンディ、今日はありがとな」


ポンポンとサンディの頭を撫でる。

モフモフ過ぎて夢中になって撫でていると、背後から芝生を踏む音が聞こえた。

振り向くと、呼び出していたあの植木鉢令嬢がいた。


「……約束通り来ました、アメリア様。用件はなんですか?私を殺しますか?」


植木鉢令嬢は真顔で冷たい瞳でこちらを見ていた。

まるで、人形のように。


「別に……あんたを殺す権限などない。あるとしたら、あの王子だろ?? てか、あんたそれなりに身分高いのに何してんだ」


優秀メイドのティナにこの植木鉢令嬢について調べさせたところ、この女はうちより下の身分であるが、侯爵家のハントリー家の令嬢であった。

名は、ゾフィー・ハントリー。


「私の家はサイネリア国の侯爵家ですの。どういう意味か分かりますか??」


うちは思わず険しい顔をする。

そんなの分かってる。

主犯は知っての通りサイネリア国のトップクラスの身分のアゼリア王女。

逆らえば、自分の家に何されるか分からない。


「当然、公爵家のご令嬢であるアメリア様なら分かりますよね?? 王女様には逆らえないんです。絶対命令です。逆らえば、自分の家をあの世庶民へ落としてやると王女様から言われました」

「それでいいじゃん」

「へ??」


うちの回答にゾフィーは口を開きっぱなしだった。

そんな顔をしなくても。


「だってさ、身分がそれなりにあっても幸せとは限らんぞ。ほら、うちって幸せそうに見えるか??」

「はい、さっき犬を撫でているとき幸せそうでした」

「……まぁ、さっきのうちのことは置いておいて。お前がこれから上の身分に立ってもこのままの身分を維持しても幸せとは限らないじゃないか?? お前が本当にしたいことをしないと人生楽しくないだろ??」

「そうですが……親に迷惑をかける訳にはいきません。しかも、私が今の身分にいるのは血をつないできた家族、親族のおかげです。その方々の努力はないがしろにできません」


確かに家族の努力を大切にしたいゾフィーの考え方も納得できる。

彼女を助けたいと思っているうちはうーんと唸り始める。

そんなうちを見て、ゾフィーは続けて話した。


「……そのためにトマス様の婚約もお受けしました。あれも王女様から仕向けられたことだったのですが。王女様は公爵家のトマス様と婚約させられそうになっていたので、それを回避するために私を婚約者にしたてあげたのです」

「やるなー。アゼリア」


驚きを超えて感心していた。


「じゃあさ、王女様が何も言えないようにうちと行動しないか??」


彼女ゾフィーはモブキャラだし、関わってうちが死ぬことはないでしょ??


「うちは公爵令嬢だし、他国の令嬢に文句は言いずらいだろ??」

「そうですが……私はサイネリア国の人間です」

「お前んち、主なにしてんの??」


顔を突き出しゾフィーに詰め寄る。


「なぜそんなに近寄るんですか……ええと、ハントリー家は化粧品や薬品を扱っております」

「なるほど、それでこの学園にいるのか……うん!! 大丈夫だなっ!!」

「何がですか??」


内容を整理するため、うちは声に出して確認する。

しかし、置いて行かれているゾフィーは怪訝な表情をしていた。


「お前の家が潰されないようにすることはできる」

「その方法は??」

「まず、アメリア王女直属海賊騎士、テウタとつながることだ」

「えっ!! トッカータ国の王女様の……??」


ゾフィーは驚きのあまり目を見開きっていた。


「ああ。うちはそのテウタと繋がりがあるから、テウタとお前が連携してその化粧品を他国に売り出すんだ」

「それはすでに行っていますが……」

「隣国だけだろ?? テウタに協力してもらえれば、サイネリア国と接しない他国はもちろん妖精相手にもできる。そうやって、規模を大きくしていけば、簡単にはお前の家は潰れない」

「なるほど……」

「それで、お前の婚約のことだが……」


悪魔のような悪い笑みを浮かべる。

その笑みにゾフィーは驚いたのか、一歩後ろに下がっていた。


「明後日のデュエルで無くしてやるよ」

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