No.34 ホントの理由

「アメリア。僕をさ、王女様に会わせてくれない?」


背中に冷や汗を感じるうちはフレイに壁ドンされていた。

しかも、大勢の生徒がいる教室で。

前世ならうちはキュンとかしていたかもしれないが、実際自分の状況を考えるとピンチということしか頭になかった。

あわあわと混乱しながらも、自分の意識を保ち答えた。


「バ、バカ。それは無理に決まってんだろ」

「ま、なんて失礼な。フレイ様に向かってその口調はなんですの?」


突然入ってきた少女の声。

その声の主はサイネリア国王女アゼリアだった。


「別にいいじゃねー……」

「しかし、フレイ様。あの王女さんのことはもういいじゃありませんか。不治の病なのでしょう?」


反抗しようとしているところに、アゼリアは視線に入っていないかのよようにうちのことはガン無視。

彼女は幸せMAXな笑みでフレイに話しかける。


「今は、私がいますの。さぁ、その無礼女から離れて席に着きましょ??」


アゼリアはフレイの手を掴み、無理やり引っ張る。

彼女に全面的に反抗できないフレイはビジネススマイルでうちを見ていた。

まるで、『あとで、じっくり話そうね』とでも言っているように。

後も何も話すことはありませんよ、王子様。

チャイムが鳴ると、うちは何事もなかったように静かに席に着いた。

今日のMVPはアゼリア。

彼女に助けられ、逃げることができたうちはそう思った。




★★★★★★★★★★




この日の夜。

寮に住んでいるフレイはウィンフィールド国王城に帰っていた。

帰るとすぐに、国王がいるであろう書斎に向かった。

案の定、国王はいたのだが……。


「陛下、サボりですか……」

「ああ、フレイ。サボりじゃないよ。仕事が切りのいいところだったからお茶しているんだよ」

「はぁ……」


ウィンフィールド国王は紅茶を楽しんでいた。


「それで、どうしたんだい?? フレイ??」

「ええ、あのホワード家の令嬢についてなのですが……」


フレイがホワード家の令嬢と言った時、国王の顔が引き締まった。


「うん」

「あのご令嬢は本当に庶民出身なのですか?? バリア魔法って……」

「ああ、そうだよ。庶民だ。あの髪色からウィンフィールドでもなく、トッカータでもない異国出身かもしれないが、発見されたのはトッカータだよ」


白い輝く髪。

その髪はウィンフィールド国、トッカータ国では珍しく、また、近隣の国でもそう滅多に見ない髪色である。

その髪色を持つアメリア・ホワードが異国出身なら納得がいく。


「しかし、バリア主魔法ですよ??」

「ああ、分かっている。ここから先は僕らの推測なんだが、彼女はもしかしたら・・・・・・王家の血を引いているかもしれない。しかし、彼女がどこの王家の血を引いているのか分からない」

「もしかしたら、僕の親戚かもしれないということですか」

「ああ」


フレイはアメリアが親戚ということを想像すると笑ってしまった。


「僕と彼女が親戚って……ありえないですよ」

「なんでだい??」

「違いがありすぎます。似ているところが一切ない。似ているなら……」

「アメリナ王女とヒラリー王女かい??」


国王の予想外な発言にフレイは少し固まっていた。



「確かに……似ていますね。彼女、トッカータの血を引いているんじゃないですか??」

「あはは、それならトッカータ国にいた理由も頷けるな。まぁ、しかし、あのアメリナ王女がね……」

「アナ姉に何かあったのですか??」


元婚約者の姉の情報が気になるフレイは訊ねる。


「そのうち聞くさ。それで、フレイ」

「何かあるように見せるだけは卑怯ですよ、陛下」


国王はイジワルっぽく笑う。


「そのうち分かるから。それよりも、フレイ。君に頼み事というか命令がある」

「僕に拒否権なしですね」


フレイは不満げな顔をした。


「アハハ。君がよっぽど嫌だったらしなくてもいいのだけれど。まぁ、その内容なんだがね」

「はい」

「アメリア・ホワードと婚約してほしんだよね」

「はい」

「え?? それだけ?」

「はい」

「それで、アメリアのデュエル後に公式に婚約を発表してというか申し込んでほしいんだ」

「はい」

「えー、君なら断ると思っていたのに意外だねー」

「頭がフリーズしているだけです」

「そゆこと」


国王はフレイに一旦落ち着いてもらうため、ソファに座るよう言った。

フレイは紅茶を飲み、国王は飲みかけの紅茶を持ってフレイの向かいのソファに座った。


「それで、僕はなんでアメリア・ホワードと婚約しなきゃならないんですか?? 僕にはアメリア・C・トッカータがいるのですが」


落ち着いたはずにも関わらず、若干キレ気味口調のフレイ。

しかし、さっきよりも落ち着いている国王。


「ああ、分かっているよ。君は仕方なく婚約解消したけれど愛してるんだよね?今回の婚約はそんな君にもってこいだよ」

「どこがですか?? アメリア……あー!! 違いますよっ!! トッカータ国の王女のほうですよ!!」

「うん、分かってるよ」


国王は慌てているフレイに笑っていた。


「そのアメリア王女以外と婚約して何がいいことあるんですか?」

「そのアメリア王女と君は会えないだろう?」

「陛下もですけどね」

「ああ……で、アメリア・ホワードはそのアメリア王女と友人だろう?」

「そうですけど……それがなんですっ……もしかして、アメリア王女とアメリア・ホワードは同一人物なんですかっ?? 確かに、思い当たる節がいくつかある……2人の名前は一緒だし、2人の顔はなんだか似てるし、口調はとんでもなく異なるけど2人とも凛々しいところは似ている。でも、アメリア・ホワードはバリア主魔法なんだよな……陛下、アメリア王女は何を主魔法にしてましたっけ?」

「……かなり長い独り言だったね」


国王はかれ切った声でアハハと笑い、あきれ顔をしていた。


「2人は同一人物じゃないよ。だって、アメリア王女の主魔法は確か……」


と国王が答えようとしたとき、国王の机にあったパソコンから呼び出し音が鳴っていた。


「ちょっと待っててね」


国王は立ち、パソコンに向かい椅子に座った。


「おお!! なんだい?? アメリア」

『おおー!! 繋がった!! おっさん、うちの声聞こえてるか?? うちが見えてるか??』

『ええっ!! 相手って陛下だったのっ!! 教えておいてよっ!! あ、夜分に申し訳ございません……すぐに切りますね。失礼しま……』

『じゃあな、おっさん。このスカイぺを国民全員が使えるようにしろよ』

「うん、わかったよ」

『あああ!! すみません、陛下!! この女が失礼なことを言って……何してんだ?? アメリアっ?! そこのボタンはっ!!』

「あ、切れちゃった」


国王はビデオ通話画面が消えると席を立ち、またソファに座った。

フレイはそのパソコンからアメリア・ホワードとルースの声が聞こえてくるのが分かった。


「……陛下。何してたんですか」

「えーと、君の未来の婚約者とビデオ通話?」

「なに連絡先交換してんですかっ!」


フレイは深い溜息をつく。


「それで、僕がアメリア王女の友人、アメリア・ホワードと婚約して何がいいことあるんですか?」

「それは君が王女の情報を手に入れることができるからだよ」

「はぁ」


フレイは意味が理解できなかったのか首を傾げる。


「アメリア令嬢の方は王女と会えると聞いただろう?」

「なんで知ってんですかそんなこと」

「スカイぺのチャット機能」

「ああ、なるほど。それで??」

「会うことが可能なアメリア令嬢に王女の状態を聞くことができるんだ」

「そういうことですか。その他にいいことないんですか?」


国王は言う度にどんどんフレイに近づく。


「アメリア令嬢は王女様が回復し、君が婚約し直したいのなら、いつでも婚約解消しても構わないと言っている」

「えっ」


フレイは目を見開き、驚いていた。


「この婚約のことは先にアメリア令嬢に伝えてあったのだが、そのとき了承を得た。どうだ?? 君には得しかないだろう?? 王女が回復しない期間、通常なら来るであろう婚約の誘いもやっかいな虫もアメリア令嬢によってこない……」

「お受けします」


フレイがそう答えた瞬間、国王はとっても嬉しそうな最高の笑顔を見せた。


「良かった、君がそう答えてくれて。危うく、あの令嬢を学園で野放しにするところだったからね」

「どういうことですか??」

「バリア主魔法の人がどういった人かは理解しているだろう??」

「ええ。国王、女王の素質がある者と聞いておりますが……」

「君ならわかるだろう??」


国王がそうフレイに問うと、フレイははたと理解した。


「他国からの取り込みですか……」


フレイがその意に気が付くと、国王はにっこり笑顔をしていた。


「あの令嬢のような才能のある者を放っておくことはできないからね」

「さすが、陛下」


ホントの理由はトッカータ国王友人に娘を守るように頼まれたからなんて国王は言えなかった。

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