No.31 お前、仕事しろや

ウィンフィールド国の王城を出たうちは学園に向かって急いで走っていた。


「アメリア様!! 車で行かれてはどうですか!! 令嬢様が走るというのは……」

「お気遣いどうも。でも、車じゃ遅いから」


この世界にも魔力・・で動く車が存在する。

もちろん、王城に行く時は使いに案内されその車に乗った。

しかし、さすが王都。

昼間は渋滞しかけなのである。

まだ、13時にはなっていないため、渋滞で時間を食われると判断し、口笛を鳴らす。


「サンディ!! ついて来てんだろっ!!」


空に向かって叫ぶ。

すると、建物の屋根から逆光のせいかアイツの影が現れた。


「やっぱりな……」


屋根から降りてきたのはうちの愛犬、サンディだった。

飼い主に会えてうれしかったのか、スリスリと体を寄せる。

最近サンディはうちがどこかしら行くと見守るように付いて来ていた。

当然、学園にも付いてきたので、仕方なく学園内にサンディ専用の小屋を作った。

生徒たちは巨大な犬が怖いのかそれとも飼い主が怖いのか理由は不明だが小屋には近づかなかったので、何かしでかすかもと心配していたが今では安堵していた。

ふさふさの毛を持つサンディに勢いよく乗る。


「さぁ、サンディ。学園に向かってくれ、屋根を使っても構わないからなるべく速くな」

「ワンっ!!」


うちは真っすぐにイベント会場の学園の中庭へと向かった。




★★★★★★★★★★




「うーん」


昼食を終えたルイは1人で学園の廊下をゆっくり歩いていた。

義姉であるアメリア彼女のことを考えながら。

姉さんを1人で行かしたけれど、大丈夫かな。

数日間しか一緒に過ごしていない姉さんだけれど、姉さんがものすごくいい人で、僕が甘えても答えてくれる優しい人で、身分とか全く気にしない素晴らしい人であることは十分に分かった。

それと同時に、たまにとんでもないことをする危なっかしい姉さんということも分かった。

いや、たまにじゃないね、しょっちゅうだね。

自分より身分が上でも容赦なく意見を言うかつ、失礼にあたるであろう口調で話す。

相手が心広い人間で良かったものの、不敬罪で姉さんがどっか行きそうで怖い。

しかも、今回の場合は国王。

心配だな。

僕もついていけばよかったな。

少しどころか気になって仕方がなくなり思わず足が王城の方に向かっていた。

踵を返し両手で頬を叩く。

ううん、僕が姉さんを信じなくてどうするんだ。

姉さんなら、大丈夫!たぶん!

よし、僕は切り替えて姉さんのためになることをしよう!

姉が喜びそうなこと……。

僕がさきに研究室に行って、実験の準備していればいいんじゃないかな!!

姉さん、たしか、今日したい実験の内容をメモしていたはず。

そう考えるとさっそくあの場所に向かった。

ドアノブを手に取り、扉を開けようとする。

しかし、開かない。

姉さんが348差し歯教室と呼ぶ姉さんの研究室は鍵がかかっており、開けることができなかった。

鍵か……。

姉さんが持っていると思うんだけど、もしかしたら僕より先に来ていたフレイ様やエリカさんが持っているかもしれない。

本当は真っ先に僕に合鍵を渡してほしいのだけれど。

仕方なく差し歯教室を離れ、エリカさんたちを探す。

学園内を歩き回っていると中庭で楽しそうに話しているフレイとエリカを見つけた。


「エリカさーん!!」


エリカさんたちのところへ行こうとしたとき、襟の部分を後ろから捕まれ引っ張られる。


「ルイ、静かにしろ。バレるだろ」


その声の主が誰なのかすぐに分かった。

襟を引っ張られたまま、その人物と近くのバラの低い生垣に隠れる。

振り向くと案の定、その人がいた。


「姉さん!!」


姉さんは急いで来たのか少し息が上がっていたが、小声で話した。


「声が大きい、ルイ。アイツらが動くまで静かに待機な」

「うんっ!!」

「バカ。声がデカいって言ってんだろ」


姉さんは僕の口を手で押さえ、声を出させないようにする。

うーん。

姉さんと、距離が近い。




★★★★★★★★★★




ルイと共に生垣に隠れたうちはエリカたちを見る。

エリカたちはルイの声に反応した。

しかし、気のせいかと思ったのか、また、楽しげに会話を続けた。

あー。

危ねー、イベントを台無しにするところだった。

エリカたちがちょっと遠くて何を話しているかさっぱり分からないが、楽しそうな2人を見て安心していた。

そろそろたぶん、あの令嬢が準備してんだろうな。

うちの予測通り、アゼリア王女の手下である令嬢が植木鉢を持って2階から目標ターゲットのエリカたちを覗いていた。

2人は令嬢の存在には気づかない。

さーて、ここからフレイ君の出番だな。

うちは終始1人でニヤニヤしていた。

その様子を横から見ていたルイは口を塞いでいたうちの手を引きはがし、小声で言った。


「姉さん、何ニヤニヤしてるの??」

「ん?? まぁ、あの2人仲がいいから付き合ってくんねーかなって」

「ああ……それで……」


若干引きつつもルイもこの状況に理解してくれたようだ。

いいじゃないか、カップルが幸せそうなことはさ。

生垣から覗くうちはたまに2階の令嬢に注目しつつフレイの様子も見ていた。

フレイは相変わらず気づかずか……。

あんた、王子なんだから周囲を少し見るべきっつーの。

2階の植木鉢令嬢だけでなく、他の令嬢たちも2人に注目していた。

それも当然、この国のトップに近いもの、いや、もしかすると、次期国王になる者と庶民がお茶しているのだ。

お妃の座を狙う令嬢たちとってその状況は放っては置けない。

それにも気づかないフレイ。

はっ、バカなこと。

じっーとフレイを見て鼻で笑っていると、急にフレイがこちらに目を向けてきた。

なっ。

バレてはめんどくさいのですぐに生垣に頭を引っ込めた。

危っねー。

なんで、こっち見るんだよ。

エリカをさっきまで見ていただろーがよ。

もしかして、フレイは周りを確認していたのか?

気づかれないようもう一度ゆっくり頭を上げる。

フレイに注目すると、彼はエリカも見つつ、気づかれないよう周りを見渡していた。

なんだ、王子としての自覚がちーとはあるじゃねーか。

でも、令嬢たちがエリカに目をつけると分かっていてなんでこんなことしてんだ??

エリカが苦しくなるのは分かっているはずなのに……。

フレイの考えが理解できず熟考していると、2階の例の令嬢が植木鉢をエリカの上に構えた。

よしっ!!

フレイの出番だぞっ!!

ちゃんと、驚いたエリカをちゃんと支えるんだぞっ!!

そこまでがお前の仕事なっ!!

他人の危機にも関わらず、ウキウキしていると、フレイが笑っているのが視界に入った。

はぁっ!?

うちは思わず立ち上がる。

何してんだっ!?

お前、さっきまで見渡しているんじゃなかったのかっ!?

とフレイに突っ込んでいるうちに、令嬢が植木鉢を離した。


「姉さん、隠れんじゃなかったのっ!? あっ!!」


背後からルイの声が聞こえたがそれどころじゃない。

エリカに向かって突然走り出す。


「アメリア様っ!?」「アメリア?」


こちらに気づいたエリカとフレイは突然現れたうちに驚く。


「バカ、フレイ」


フレイにそう言い放つと、うちはエリカの身を守るように抱き、スライムのような柔らかさでエリカとフレイ、それに自分を囲うような立方体のバリアを作った。


「えっ??」


エリカがへんてこりんな声を発したとき、植木鉢はバウンドしながら立方体バリアに受け止められた。

よかった、守れた。


「姉さんっ!!」


身を隠していたルイは生垣から飛び出し、うちのもとに向かって全力で走ってくる。


「姉さん、大丈夫??」

「ああ、うちはなんともないが、上に乗っかっている植木鉢を取ってくれないか??」

「うん、分かった!!」


ルイが植木鉢を取ると、抱いていたエリカを解放し、スライムバリアも解除した。

うちはすかさず2階にいる彼女を睨む。

例の令嬢は目を合わせると、恐れたのか逃げるようにすぐさま走り去った。

しかし、うちは彼女に向かって手を伸ばす。

自分のバリア魔法を応用して透明な巨大な手のみを作り、それを使い、令嬢を捕えた。

その時、令嬢は顔を真っ赤にさせながら巨大な手を叩きあがいていたが、一切離すことなく中庭まで連れてきた。

捕らえた植木鉢令嬢の方へうちはゆっくり足を進める。


「いくらなんでもフレイ王子がいるところでこんなことをするのは誰かに頼まれ……いや……脅されたからだろ??」


全部真相を知っているが、周りに疑われるのは面倒なので(アメリアにとって)知らないフリをしつつ言った。

顔を真っ赤にさせた令嬢は目は潤ましている。

動かなかったというか動きが完全に遅かったフレイに対する怒りを彼女に当てていた。

まぁ、八つ当たりであるが、別にいいだろ。

と令嬢に怒り迫っていると、右から何か近づいてくる者を感じた。


「おいっ!!」


声が聞こえた方に顔を振ると、貴族の子息らしい少年がこちらに歩いて来ていた。


「なんや」


うん。

なんかめんどくさそうなやつがやってきた予感がするぞ。

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