No.30 3人の願い事

「嫌だー」


せっかく向こうで婚約破棄したのになんでこっちでしなきゃならないんだよ。

やーだよ。

それに今うちには急がないといけないことがあるんだ。

イベントまで時間がないにも関わらず、ウィンフィールド国王このおっさんに足を止められていた。


「そんなこと言ってたら、君の正体をウィンフィールド国中ばらすよ」

「エグいな、おっさん。うちに脅しってか??」


拒否権なしじゃないか。

しかし、ウィンフィールド国国王は顔をしかめていた。


「しかしなんで、君はフレイをそんなに嫌うのかい?? 悪い子ではないだろう?」


いや、おっさんにとってはいい子かもしれんけど、うちにとってはフレイアイツは死神なんだよ。

別にアイツが全て悪いわけではないが。


「性格が合わない、以上。じゃあ」

「ああー!! 待った待った!!」


その場を立ち去ろうとすると、必死な国王がこちらの方に手を伸ばし立ち上がる。

大きい声を出すものでうちは驚き立ち止まった。

なんだよ……。


「婚約者になったら、重要な行事もパスで大丈夫。確実に君の研究時間は保証する。それはたとえ王妃になったとしてもだ。だから、いいだろう??」


マジか……。

この国の最高権力者のなんとも目が離しがたい提案に少し心が揺ぐ。

この国にとどまることはかなりのリスクがある。

例えば、殺されるとか殺されるとか。

しかし、うちが生徒にも関わらず、行事に参加せず研究ができることはなんとも魅力的だった。

カチカチと静かに音を鳴らす懐中時計に目をやる。

もうその時間は今すぐに帰ってやっとイベントに間に合う時間だった。

あー!!

仕方ない!!

また、前回みたいにして破棄にすればいいっか!!

エリカのことを好きになったと分かったらこっちから婚約破棄したらいいもんなっ!!

時間が最優先のうちは首を縦に振った。


「分かったよっ!! おっさん、婚約してやるっ!! そのかわり、さっき言ったこと守れよっ!!」

「うん、わかったよ。ありがとう」

「ん!! じゃあなっ!!」


それだけ答えると駆け足でお楽しみイベントが発生する学園の方に向かった。




★★★★★★★★★★




アメリアの故郷、トッカータ国王城。

例の本を見つけたヒラリーとメルンは国王のところに訪れていた。

トッカータ国王の姿は王座の間にも書斎にもなく、庭でお茶をしていた。


「何してるんですか、陛下。仕事を放棄して」


ヒラリーは呆れた顔をしていた。


「ヒラリーが大体の仕事をやっていてくれたから特に僕がやることもなくてね。しかし、こんな時ぐらい、お父さんとかパパって呼んでくれてもいいんじゃない??」

「いけません。陛下は陛下とお呼びします」

「相変わらず、ヒラリーは堅いな。なぁ?? メルン??」

「……ええ、そうですね。父上」


メルンは柔らかく微笑む。


「メルン、君もかい。まぁ、いいや。それで、何か用があってきたんだろう?? さぁ、座りなさい」

「では、お言葉に甘えて」


ヒラリーとメルンは丸テーブルを挟み国王の向かい側に座った。

国王はヒラリーが持っていた本に目をやる。


「ヒラリー、その本は?? どこから取ってきたんだい?? 宝庫室かい?」

「陛下はこの本をご存じでしたか……」


そう。

ヒラリーとメルンは王立図書館の中でも、王族やその他の認可が下りた者しか立ち入りができない王宮書庫室で本を読んでいた。

ヒラリーが持っている本はそこで見つけたのだ。

因みになぜ王宮書庫室を宝庫室と呼んでいるかというと、トッカータ国第1王女アメリナがたまにそこで本を読んでいると服のデザインがじゃんじゃん生まれるらしく、宝庫室と名付けると瞬く間になぜか宝庫室と呼ばれるようになった。

そのせいでその宝庫室に立ち入るための許可申請がかなり増え(特にデザイナーから)、図書館職員は仕事が増加し苦しむ羽目になった。


うん、すべてはアメリナ姉さん姉さんのせい。


ヒラリーははぁとため息をつく。


「うん、知ってるよ。もしかして、アメリアのことかい??」

「ええ。この本によるとアメリアに女王の資格があると書いてありますが……」

「ああ、そうだね。でも、資格があるからって他の人が国王や女王になれないわけではないよ。ただ、資格というより素質がありますよってことだね」

「というのは??」


ヒラリーは首をかしげる。


「ほら、バリア魔法は防御の中では一番。国のトップに立つものは何かあったとき当然国民を守らなければならないだろう?だから、防御では圧倒できるバリア魔法を主魔法にする者が国王や女王にふさわしいとしているのだろうって言ったよ。君たちの曾祖母がね」

「なるほど、ユリアナ様ですか」

「ああ、ユリアナ様は本当に素晴らしいお方だったよ。国民のことを一番に思い、北からの侵攻の際には自分のバリア魔法で国民を守った。しかも、侵攻で弱っていたこの国を立て直し、ファッションの国にまでしたのだからね」

「兄のエドワード様ではなくユリアナ様が女王に即位したのはバリア魔法を主魔法にしていたからですか」


国王はうなずく。


「ああ、そうだよ。言い伝えに沿ってね。兄のエドワード様は最初から国王なんてするつもりなかったみたいだけど。だから、といってアメリアが女王になる必要もない。多分、本人が嫌がるだろうからね」

「……そうですね」


3人はアメリアに女王にならないかという提案をしたときの反応を思い浮かべると笑ってしまった。


「まぁ、もしも、北の国、ホワイトネメシア国が仕掛けたときは考えなくてはなりませんね」


国王は軽く笑う。


「まぁ、なくもない話だけど、その時にはアメリアが表でヒラリーが裏で動けば何も心配はいらないと思うけどね。あ、嫁いでなかったらメルンはヒラリーを支えってやって」

「……嫁ぐ予定はありません。私はずっとここにいますが、まずは父上がしっかりしてください」


メルンは国王を睨むが、睨むメルンは眠たそうな顔をしているように見えた。


「うん、そうだね。まずはそんなことが起きないようにホワイトネメシアとは仲良くしなきゃね」

「あ、ホワイトネメシア国といえば、確かアメリアと同じくらいの年の王子がいませんでしたっけ?」

「……うん、いた」


国王は少し考えこむと、ハッとし何かを思い出した。


「確かあそこの子、途中からウィスタリア王立学園ウィスタリアに留学するんじゃなかったけ?」

「え??」


そして、3人はいつも何かしらしでかす危ない彼女のことを思い出す。


アメリアがどうかホワイトネメシア国の王子の彼に何もしでかしませんように!!


3人はそう必死に願った。

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