最終章 そして狼ちゃんは虎視眈々と猫を被る

第22話それから

 結局、あの占い師は何だったんだ?


 その疑問は、それから後も消えることは無かった。ネットで調べてみたものの、『よく当たる占い』とか、『二人の魂の結びつきを見ている』とか、そんな事しか見当たらない。森下さんをはじめ、課の女性スタッフに聞いてみても、『課長!? そこに行ったんですか!? 誰と行ったんですか!?』という話になり、それ以上詳しくは聞けなかった。



 ――というより、それからしばらく誰と行ったのかが話題になって、誰にも聞けないありさまだった……。


 ホント、平和な世の中だ。こんなおっさんの行動が、一々話題になるなんて……。


 でも、それでも会社は動いていく。時間が流れていくうちに、噂は徐々に消えていく。


 その代わりにやってくる、いつも通りの日常。


 それが確かに過ぎていく。代わり映えの無い普段の生活。だが、唯一俺のまわりで変わったことがあると言えば、あの日から若菜ちゃんの態度が変わった事だろう。


 占いの館――そう呼んでいいのかわからないけど――から出て来た時には、とても晴れやかな笑顔だった。

 しかも、『おじ様、あの言葉忘れないでくださいね。そして、信じていてくださいね』と言った後から、過度なスキンシップは無くなっている。


 普通に昼食を食べ、普通に貴志の応援を共にする。


 それは、今までのことがまるで夢だったと思えるように、『きわめて普通』な関係だった。


 去来するのは一抹の寂しさ。だが、同時に自嘲の念がわいてくる。


 それは、俺がそれを求めていることを証明しているようなもの。頭では色々考えつつも、若菜ちゃんの過度なスキンシップを求めていたという事だ。


 ――度し難いぞ、俺。本当に、どうかしている。


 だが、そう考えても、なかなか忘れられそうになかった。


 ――いや、今までがおかしかったんだ。これでいい。これが普通の関係だ。そして、若菜ちゃんが届けてくれた普通の親子関係にも感謝しよう。


 そう、あれから俺と貴志は徐々に話しをするようになっていた。急に話をするわけじゃない。共通の話題は若菜ちゃんに関する事と進路の事。


 学校行事の事も、若菜ちゃんに教えてもらうのではなく、貴志の口から聞いている。


 そして、野球の試合の事も。


 あの試合で、貴志は目覚ましい活躍を見せていた。サイクルヒットとファインプレー。遠くで見ていた俺でもわかる。貴志はすでにあのチームで中心となるメンバーだった。


 そして、その活躍は他校の女子生徒にも好意的に映っており、一日にして貴志は有名選手になっていた。


 当然学校でもモテまくった。それは後で聞いた話。


 だが、それでも貴志は一途だった。その貴志の想いに、若菜ちゃんは応えている。


 あれから数か月が過ぎているが、二人の関係は良好なものだと聞いている。



 ――これでいい。これが自然な事なんだ。



 そう思って二人を見守る。それが俺に出来ることだと理解できている。



 そして、その日がやってきた。アイツの海外出張が終わる日が――。

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