ファンタジー依存症に要注意

ちびまるフォイ

ふかまった愛の行方

「先生。実はうちの息子がファンタジー依存症なんです。

 どうか診てあげてもらえませんか?」


「息子さんが……。詳しく説明いただけますか?」


「はい、私から説明します」


医者は女の言葉を静かに聞いていた。


「最初はゲームからだったんです。

 ゲームに出てくるファンタジーの生き物を絵に書くようになって

 そのうちノートに設定や自分なりの世界を書くようになりました」


「……なるほど」


「最初はカワイイものだと思って、この手の年頃の男の子には

 よくある傾向だとネットでも見たもので安心したんです」


「息子さんはいくつですか?」

「6歳です」


「誕生日は?」

「1月25日。忘れるわけありません」


「そうですか……」


「それからです。しだいにファンタジーの設定は量を増やしていくうちに

 より説得力のある内容で詳細なものになってきたんです」


「……危険な傾向ですね」


「はい。私も最初はここまでエスカレートするとは思っていませんでした」


医者は手元のカルテに目を落とす。

女は熱を持ってなおも訴え続ける。


「やがて、ファンタジーと現実の境界線が曖昧になっていきました。

 昨日ドラゴンを見たよ、なんて話すものだからどんどん心配になって……」


「そうですか……」


「今ではファンタジーなものを常に見聞きしないと生きていけないほど

 ファンタジー中毒になってしまっているんです。

 現実を認識できていなくて、もうどうすればいいのか……」


「なにか現実を見られる薬を……」


医者が言葉をこぼすと女は血相を変えた。


「バカにしないでください! そんなのはもうやってるんですよ!

 さんざん手を尽くしてそれでもダメだったから、

 こうして先生のもとを訪れたんじゃないですか!!」


「す、すみません……」


「先生にとっては大量にさばく患者のひとりかもしれませんが、

 私にとってはかけがえのない大切な子供なんです!!!

 一緒に毎日を過ごし、成長を見てきた大切な子供なんです!!」


「お、落ち着いてください」


「先生は子供への愛情がわからないんですか!?

 親が子を思う気持ちがどんなに深いものかわからないんですか!

 お腹を痛めて必死に生んだ子を助けてあげたいって思うのが親心でしょう!?」


「わ、わかりました。いったん診療方針を検討します」


医者は同席していた看護師とともに病室を出た。

看護師は心配そうな顔で尋ねた。


「先生……どうしましょう」


「わかっている。理想が膨らみすぎて妄想と現実があいまいになったのだろう。

 だがひとつずつ告げるしかあるまい」





「まず、患者には子供がいないことを伝えないとな……」

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