EP.22 幼馴染は食べかけのアイスクリームを当たり前のように突き出す
助けを求めようと哲也さんの連絡先を聞きに来て逆に逃げ場を断たれた俺は、失意の中不壇通さんのお宅を後にする。まさか作戦がここまで裏目に出るなんて、だれも予想していなかっただろう。相変わらず、自分の運の悪さには閉口する。
こうなってしまった以上は哲也さんに連絡をしたところで逆に『咲愛也をひとりにしないでくれ!』と懇願されるビジョンしか見えない。
「どうしよう……」
打開策なんて思い浮かばない。それに、まずは咲愛也から避けられている現状をなんとかしないと……そんな想いを抱えたままマンションのエントランスを出ると、丁度帰ってきた咲愛也と目が合う。
「「あ。」」
手にしたアイスクリームが思わず落っこちそうな驚いた表情。どうにかして仲直りしようと俺は口を開く。
「今日はクレープじゃなかったのか?」
それより先に言うべきことがあるだろうと、自分にツッコミを入れたくなる。が、予想に反して咲愛也はいつも通りだった。
「帰り道に買ったの。今日はダブルがトリプルになる日だったから。みっちゃん、食べる?」
ずい、と差し出されたアイスクリームはどこから食べればいいのかわからないくらいに咲愛也の食べかけだ。というか、舐めかけ。
「いいよ。キャラメルリボンは咲愛也の好物だろ?」
「その下のアーモンドファッジはみっちゃんの好きなやつだよ?」
ずずい、と有無を言わさず突き付けられた真ん中の一番食べづらい部分。俺は遠慮がちに嚙みついて感想を述べる。
「……甘い」
「それがいいんじゃん?」
「うん。美味い」
頷くと、咲愛也は『ふふっ』と楽しそうに笑った。昼に避けられていたのは気のせいだろうか?だが、この笑顔に甘んじているようだから今回のことのようになるんだ。俺は唇についたチョコレートソースを拭って口を開く。
「咲愛也。話があるんだけど、少しいいか?」
「?」
きょとんとした顔の咲愛也をつれて、マンション内の公園のベンチに移動する。
俺は、ひと思いに頭を下げた。
「咲愛也、ごめん」
「え?」
「その……今朝は、声を掛けずに出てきてしまったから……」
「あ……」
「怒ってる……よな?」
尋ねると、咲愛也はなんでもない風に微笑んだ。
「怒ってなんてないよ。ちょっと、寂しかったけど」
「ごめん」
「謝らなくていいってば。私こそ、しつこくし過ぎちゃったかも。反省」
そう言って、『てへぺろ』と言わんばかりに舌を出すと、アイスクリームのせいで冷えて赤くなった舌先がのぞく。その無邪気な表情に、心の荷がすっとおりたような気がした。
(今なら……)
「咲愛也。相談が、あるんだけど……」
「なぁに?」
「夏休み、ウチに来ないか?」
「え?それって……」
「咲月さんと咲夜さんに聞いたんだ。夏休みの間、咲愛也ひとりなんだろ?俺の家もおじさんと母さんがいないから……それで……」
『同棲』という単語は直接口には出しづらい。言い淀んでいると、咲愛也がぽつりと呟いた。
「……行く」
「…………」
「みっちゃん
(いや、永住じゃないけど……)
夕陽に染まる、決意に満ちた眼差し。思いのほかテンションが爆発しない様子がどこかさみしくも感じるが、来ると言っている以上、嫌われたというのは杞憂だったようだ。ひとまず胸をなでおろす。俺はゆっくりとベンチから腰をあげた。
「……わかった。前日に代行業者を呼んで一斉に掃除するから。終業式が終わったら……で、いいか?」
「うん!それまでに準備しておくね!」
「…………」
何の準備かは、聞かない方がいい気がする。そう思うのは俺だけか?
とにもかくにも、こうして俺は逃げ場を失った。
(一か月……)
これまで十七年も守ってきたんだ。この関係を、今更壊すわけにはいかない。あと三年。あと三年なんだ。だからどうか、それまでは……
咲愛也とはおそらく違う決意を秘め、俺達は公園を後にしたのだった。
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