第72話(最終話)そうして願いが叶うとき


 いつになく真剣な言葉に、耳を傾けるふたり。

 その表情は穏やかで、どこか予感していたかのような雰囲気を醸し出している。

 俺は、想いに応えるように口を開いた。


「俺は、咲夜と咲月、ふたりのことが大好きだ」


「「――っ!」」


「これ以上ないくらいに大切で、どうしようもなくて……ただ、どうしようもないくらいに、同じくらい好きなんだ……」


「「…………」」


「どちらか一方だけなんて……選べない……ごめん……」


「「哲也君……」」


「不義理だっていうのはわかってる。優柔不断だし、男らしくないし、情けない。けど……どうしても……」


 言葉を詰まらせる俺をよそに、ふたりはくすくすと笑い始める。


「ふふ……哲也君て、やっぱりどこまでも哲也君だね?」

「え?」


「私達の方こそごめんなさい?君を困らせるのはわかっていたのに、ふたりして平等に言い寄ったりして」


「交互に寝室を訪ねたり――」

「お姉ちゃんと同じことして?なんて、わがまま言って――」


「「ごめんね?」」


 にっこりと、イタズラっぽく笑う。


「こんなんじゃ、選べなくなるのも無理ないよね?だって、顔は同じだし?」

「いや、顔は似てるけど、違う……性格も、全然。仕草だって……」


「え~!じゃあ、どっちの方が可愛いの!?」

「いや、だから、それは……」


「ふふ、ごめんて。冗談だよ?」


 くすくす。

 ふたりのペースに、俺はたじたじだ。

 気まずそうに視線を逸らしていると、咲月は咲夜に目配せする。


「お姉ちゃん、私達からも言った方がいいかしら?」

「ん?何を?大好きだよって?」

「『あの賭け』のこと」

「あー……」


 考えるようにして、虚空を見上げる咲夜。


「『賭け』……?」


 尋ねると、ひと際イタズラっぽく笑う。


「ふふ、内緒!変に意識されたらヤだからね!」

「それもそうね?」

「なんだそれ?」

「なんでもないよ!ただ――」

「?」


 首を傾げる俺に、双子はとびきりの笑顔で笑いかけた。


「私達の目的は――」

「キミと幸せに暮らすこと!」


「「だから、これからも一緒にいてね?」」


 俺は、全力で首を縦に振った。


「ああ……!こちらこそ、よろしくな?」


「「うん!」」


 その笑顔に、俺は胸の中でもう一度頷いた。


 ああ……監禁されて、よかったな。


      ◇


 結局、ふたりのうちのどちらを選択するということもなく、俺達は幸せな生活を送った。それに関して典ちゃんから制裁が下されるということもなく、日々は平穏に過ぎていく。

 三人で大学に通って、バイトをしたり、旅行に行ったり、ミーナちゃんと遊んだり。


 四年になって就活を迎えた俺達は『やっぱり外はダメだ』『ずっと【ウチ】にいよう』なんて愚痴を吐きながらもなんとかそれを乗り切り、三人共縁のあった会社に就職が決まった。


 会社を選ぶ条件は、『幸せに暮らせそうなとこ』。


 今いる都内のマンションから通えて、転勤が無い、ワークライフバランスの優れた会社を求めていたが、それを満たす会社に就職できたのは双子だけだった。


 咲夜は在宅のリモートワークが認められるシステム系の会社の為、ほぼ今までと変わらないような生活になるらしい。

 『週一の会議だけは出ないとダメらしい』なんてブツクサ文句を言っていたが、俺からすれば竜宮城みたいに良い会社だ。


 だって、俺の会社は都内にあって転勤が無いだけだから。ワークライフバランスとか、『何それ美味しいの?』『これからがんばってみる?』って感じのとこだから。


 そんな俺の雲行き怪しい末路を聞いた典ちゃんは、『過労で倒れたら面倒見てあげる。鬱の診断書出そうか?労災で。なんならウチの病院で雇う?』なんて甘言を囁くのだった。

 『俺は悪魔に騙される子羊さんじゃない』とイキってみせたのはいいが、新人研修を終えた俺はうっかり佐々木邸に足を運びそうになった。


 咲月は咲月で、文句なしに良い会社に就職が決まっていた。高給、安定、好待遇。

 やっぱ美人は得だな、なんて。縁起でもないことが一瞬脳裏を掠める。



 そうして、月日は流れて、俺達の元には嬉しい知らせが舞い込んだ。


 ――子供ができたのだ。


 嬉しく思う反面、何ともいえない複雑な想いを抱える俺に、双子はある『秘密の賭け』について暴露する。

 賭けの内容は、『先に妊娠した方が正式な結婚相手になる』というものだった。


 その思いやりに満ちた賭けは俺を救い、ふたりの意向に沿って俺は婚姻届を提出した。

 どちらかと結婚したとしても、暮らすのは今と変わらず三人だ。

 だって、そうじゃないと『幸せな暮らし』とは呼べないから。


 生まれた子供は女の子。見ればすぐわかる、咲夜と咲月によく似た子だった。

 内心で安堵する俺に、白衣姿の典ちゃんは再び囁いた。

 『ママに似て、よかったね?』と。


 本当に、全くもってそのとおりだよ。



 そんな典ちゃんは、ほんの数か月前から子育てしている先輩だった。

 けど、育てているのは典ちゃんの子じゃない。

 一緒に暮らしていた野薔薇ちゃんが産んだらしい、『多分兄さんの子』。


 ふらふらと、家に居たり居なかったりする野薔薇ちゃんの生活に特に興味のない典ちゃんだったが、野薔薇ちゃんは『兄さん』以外を好きになることは無いからそういうことらしい。

 ちなみに、『兄さん』は未だにガチ檻の中なので、その辺は謎だ。檻の中とはいっても、やっぱりそこは元・エリート警察官。袖の下でも通せば、たまに外に出る抜け道を知っているのかもしれない。恐ろしい話ではあるが……まぁ、野薔薇ちゃんはおかげで寂しくないようだし、幸せそうなのでそれでいいと思う。



 小学生になってすっかりお姉さんになったミーナちゃんは、小学校でモテ無双。

 しかし、一緒に遊びたがる男の子には目もくれず、真っ先に帰宅しては俺達の家で文字通り『お姉さん』をしている。その溺愛っぷりは咲夜のアルティメット姉バカを彷彿とさせた。

 『にーにの赤ちゃん可愛いね~!』と、にぱーっとされると、頬が緩んで俺の顔面は原型を失う。

 『俺は産んでないけどな?』とツッコむのが精一杯だ。



 俺達の子は、そんな頼りになるような、ならないような人達に囲まれて、すくすくと育っている。初めて覚えた言葉は『ママ』。


 そう呼ばれて振り返るのは――


 どっちだっていいさ。

 だって、俺達は今、誰よりも『幸せに暮らしている』んだから。


      ◇


 そうして、朝目を覚ますとき。

 俺の上には、もう美少女も美幼女も乗っていない。


「――ん……」


 朝の陽ざしに急かされるように、眠い目をこすって瞼を開けると、

 俺の上には――


 うつぶせ寝を覚えたばかりの、可愛いかわいい天使がいる。


 心地よさそうに寝息をたてるその姿に、俺はそっと声を掛ける。


「おはよう。今日もいい日だな?」


 もちろん、言葉はまだわからない。

 けど、いつかその小さなお口が俺を『パパ』と呼ぶ日まで……いや、呼んでからも、ずっと。


 俺は双子とこの天使の笑顔の、傍にいる。ずっと、ずっと、傍にいる。


 鎖なんか――無くても。




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《あとがき》お礼と【新作】のお知らせ+ちょっとのお願い


 こんばんは。いつも応援してくださる方々、最後まで読んでくださった方々、本当にありがとうございました。ここまで続けられたのも、ひとえに皆様のおかげです。

 本当に、本当に。心の底からお礼申し上げます。

 これにてこのお話は完結です。少しですが、明日の更新からアフターエピソードを予定していますので、お楽しみいただけると幸いです。


 また、今晩から【新作】を公開しています。

 アフターエピソードのキャラクターとリンクする場面もありますので、是非フォローしていただけると嬉しいです。

 タイトルは、【征服学園 ハイスクール・コンクエスト】。

 主人公は幼馴染のヒロインと協力して美人生徒会長をぎゃふんと言わせる為に、生徒会選挙に立候補する。そして学園征服を目論む、という学園ラブコメです。

 美人生徒会長、幼馴染の他にもメイド、腐女子、美少年など、なんでもアリなラインナップになっていますので、広い心で見守っていただけると……



 最後に。私事わたくしごとにはなりますが、コンテストに参加中のため、ここまでの感想や☆評価、読んでみてのレビューなどを、なんでもかまいませんのでいただけると嬉しいです。

 いただきました☆評価やレビューは、今後の作品に活かしていけるように頑張っていきたいと考えております。


 それでは、あと少しのアフターエピソードをお楽しみいただければ幸いです!どうぞ、よろしくお願いします。

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