019  それぞれの思い Ⅶ

「そろそろ時間じゃ。私が言ったことはすべて頭に入っておるか?」


 八雲が訊く。


「ああ。朱音を奪還する以外は、なるべく戦闘は避けるんだろ? なんでだ? ギルドマスターさえ倒せば、敵の戦力は大幅に下がるだろうに……」


「ギルマスでも奴は悪の悪だ。なぜ、このイスミシティの西区だけで止まっておるのか、お主は分かっておるか?」


「どういうことだ?」


「奴が今計画していることは、祐斗の連れの少女を使ってこの街を今度こそ手に入れる手立てでも考えておるのだろう。あの男が考えそうなことだな」


 八雲は嫌そうな顔をする。


「なんで八雲さんにはそいつの考えが分かるんだ?」


「一度、奴とは殺し合ったことがあってな。結局は……」


「結局は?」


 祐斗は八雲の話に息を呑む。


「いや、この話はやめておこう。さて、外に出るぞ。一週間もこの空間にいすぎて外の空気を吸ってなかろう。行くぞ」


 そう言われて、八雲の後に続く祐斗。


 地下から地上に上がり、久々の景色を目の当たりにする。つい最近まで自分が寝ていた部屋も綺麗片付いていた。


 そして、ようやく家の外へと出る。


「遅いぞ。お前は俺を待たせる気か?」


 と、目の前には見覚えのある男が立っていた。


 あの忌々しい、憎たらしい、レストランの女たらしの男。


「なんで、てめぇーがいる⁉」


 祐斗が驚く。


「ああ? 俺も一緒に行くんだよ。お前のためじゃねぇ、朱音さんのために行くんだ。俺が朱音さんを助けるんだ! 文句は言わせねぇ‼ このまま黙っていられるか‼」


 大河はコック姿ではなく、戦闘服の状態で現れたのだ。


「てめぇーの力なんて借りねぇ! 俺一人で十分だ! さっさと帰りやがれ‼」


 祐斗は反抗的に言う。


「嫌だね。俺は俺の意志で行く。お前に指図される義務はねぇ‼」


 二人は険悪の中、言い合いが始まる。


「ほれ、二人とも喧嘩はするな。いい加減にしないと、私が貴様らを殺すぞ」


 と、八雲は笑顔で物騒な事を言いだす。


「「す、すみませんでした……」」


 二人はすぐに喧嘩をやめ、八雲に謝る。


「八雲、私も一緒に同行してもよろしいでしょうか?」


 と、家の奥から姿を現した瑞希が言った。


「……」


 八雲は少し黙る。


「……」


 瑞希は、八雲の目を逸らさずに見続ける。


「はぁ……。今更言っても無駄な様じゃな。お主が、陰でこそこそしておったのは分かっておった。頑固なお主を今更止めるなど無理なのは私がよーく知っている」


 瑞希は、息を呑む。


「だから行け! お主の目的は分かっておるからのう」


「ありがとう、八雲」


 八雲は礼を言われて、照れくさそうに顔を背ける。


 決戦の日、敵の本山は西区。数は分からず。見方はたったの三人。


 どう見ても勝負にすらならない数だ。


「行くぞ‼」


 祐斗がそう言うと、三人はそれぞれの思いを胸に敵地へと乗り込む。

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