009  腕利きの弓使い Ⅱ

「うぉおおおおおおおおおおおおおお‼」


 男は料理そっちのけにして、その美しき美少女の元へと走っていった。


「おお、美しき女性よ。今日はどのようなご来店でしょうか?」


 男は少女の前に現れると、礼儀正しく挨拶をする。その少女こそが朱音だったのだ。


 二人は唖然とした。


 急に目の前の視界に男が入ってきたのだ。びっくりしても仕方がない。


「え、あ……」


 朱音は戸惑う。


「おい! てめぇ、いきなり何しやがる‼」


 祐斗は、男を睨みつけながら言う。


「お前に興味はない。俺の興味があるのはあなたです。美しきレディよ」


 男は膝をつき、朱音の右手を手に取り、左手を自分の胸に添え、優しく微笑みながら、祐斗の事はスルーし、朱音だけを見つめる。


「てか、俺の連れに手出しするんじゃねぇ! この糞料理人が‼」


 祐斗がキレる。


「ああ? 誰が糞料理人だ⁉ お前に言われる筋合いはねぇ‼ 俺はなぁ、世界中の女性のために日々腕を磨き、料理を提供しているんだよ‼ それがどの世界に行こうとも一緒だ‼ 少しは黙ってろ‼ それであなたのお名前は?」


 男は祐斗に文句を言いつつ、朱音には名前を訊き出そうと店内で堂々とナンパする。


「答える必要はないぞ‼」


 祐斗は、イライラが募る。


山城朱音やましろあかねよ」


「おい‼」


「山城朱音さんか……。いい名前ですね。私の名前は伊勢大河いせたいがと言います。以後、お見知りおきよ……」


「は、はぁ……」


 朱音は苦笑いしながら、大河のその優しさに少し困っていた。


「それでご注文の品は何にいたしましょうか?」


「それじゃあ、この料理でお願いします」


 朱音はメニュー表に載っている品の名前を指差す。


「かしこまりました。一つ一つ、丁寧に調理して運ばせてもらいます」


 大河は、立ち上がって一礼する。


「お前は何にする⁉ 早く言え‼」


 大河は、祐斗を冷たい目線で見る。朱音との態度の差が激しすぎる。


「はぁ⁉ てめぇ、それが客に対する態度か‼」


 祐斗は我慢の限界で、溜まった怒りを全部、大河にぶちまける。


「何を言う。お前にはレディーファーストというものを知らないのか? 美しき女性にはサービスをする。それくらい当たり前だろう?」


「何がレディーファーストだぁ? どうせ、料理が下手だから言っているんじゃないのか?」


「誰が下手だって? 俺はなぁ、ここの副料理長なんだぞ‼」


「そうか、てめぇが副料理長か。なら、お前の自慢の料理で‼ それで満足させてみろよ‼」


「ああ、分かった! すぐに用意してやる‼ 首を洗って待っていろ‼」


 コック姿の大河は、ポケットに両手を突っ込み、振り返ってすぐに厨房に戻る。


「何だよ、あいつ……。失礼にも程があるだろう」


 祐斗は、不機嫌そうな表情で嫌々と席に座る。


「祐斗も意外と失礼だったりしているけど……。でも、悪い人ではないと思う……」


「それはどこから出てくる根拠だよ……」


 祐斗は、苦笑いする。


「似た者同士だから?」


「誰が?」


「知らない……」


 朱音は、窓の外を見ながら嬉しそうに鼻歌を歌う。




 二十分後————


 大河は、厨房から料理を両手に持ち現れた。


「朱音さん。あなたのために愛情をこめて作りました。どうぞ、私特製のオムライスのコースでございます」


 大河は、朱音の目の前の中央に美味しそうなオムライスを出す。フワフワとした柔らかな卵が、ご飯とマッチングしており、ケチャップで『愛を込めて』と、書かれてある。その後に女性が食べやすいようにちょっとした料理が並べられた。


「お、美味しそう……」


 朱音は目を輝かせながら、目の前の料理に目を奪われ、今にも食べ始めたいとギリギリの所でグッと堪える。


「喜んでもらえて光栄です」


 大河は、礼を言う。


「ほら、俺の自慢の料理だ。食ってみろ‼」


 大河は祐斗の方をちらっと見て、右手に持った料理を祐斗の前に出す。


 日本の料亭に出てくるレベルの完成度の高い和食料理だ。

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