18.クラスメイトとの関係
体育祭も無事終わり、腹を壊していた連中も閉会式の頃には、顔色悪くもなんとか戻って来ていた。せめてもう少し早く体調を直してくれたらと恨みがましい視線を送るが、散々な思いをしたわけじゃないので、まあいいかと問屋を下ろす。いい経験ができたといえば、そうなのか。俺の人生の中で最も記憶に残るような体育祭になったことは確かだ。またやりたいとは決して思わないが。
あの後、俺の前の順番の転倒したやつは、しつこいくらい俺にお礼を言って来た。そいつだけじゃなく同じリレーの選手だったメンバーは、いい走りだったと声をかけてくれたりして、しまいには部活勧誘まで話を持っていかれた。今まで話したこともないようなクラスメイトに詰め寄るように話しかけられて若干及び腰になってしまったが、こういう感じは本当に久しぶりでそんなに悪い気分じゃない。
俺のクラスは残念ながら総合優勝とはいかなかったが、あの学年対抗リレーで2年生が勝つという快挙を達成したので、皆晴れやかな顔をしていた。総合的な結果は寧ろ下から数えたほうが早いくらいなのに、そんな結果もう目にも入らないようで、先生含めてクラス全員嬉しそうにしている。
そういえば、あのリレーの後から塚本くんの姿を見ていない。自分のことに必死だったが、あいつのことだから何かしら声をかけてくると思っていたのに。半分くらい…というかほぼあいつのために全力を出してやったというのに、なんのリアクションもないのは少し残念だった。
やっぱり連絡手段がないのは不便かなと思いながら帰りの支度をしていると、声をかけられる。
「なあ、お前も来ない?この後お疲れ様会やるけど」
そいつは俺の後に走っためちゃくちゃ足が早いやつだった。そんな誰が声をかけて来たか、ということよりも、それに俺を誘ってくれたことがびっくりだった。信じられなくて一瞬言葉が理解できなくなる。言葉を理解しても信じられなくて、思わず背後を振り返って人がいるかを確かめてしまったくらいだ。
「は…、え、俺を誘ってんの?」
「?そーだけど。俺お前のこと見てんだろ」
「…ああ、そっか」
正直嬉しい。というかかなり戸惑っている。ただリレーで走っただけだぞ、という気持ちだ。それだけで人と仲良くなることなんてできるんだっけ。
「俺お前と話したいんだけど。部活勧誘も込めてさ」
そう言ってニヤッと笑う顔に俺は顔が引きつる。
「そっちが本題だろ」
せっかくの誘いだし、行ってみたいというのが本音だ。部活の話は勘弁してほしいが。もしかしたらこれを機会にまた親しくなれる友達ができるかもしれない。人を避けて来たとはいえ、それを全く望んでいないわけではないのだ。
でも、な。
「いや、悪い。今日はちょっと先約がある。…また誘ってくれ」
俺の返答に少しだけ残念そうな顔をしたが、彼は特に文句を言うこともなく「また誘うよ」と返してくれた。いいやつだと思う分、断ってしまったことが心苦しく感じられる。
クラスではまだこの後どこに行くのかを話し合っている中、俺はそっと教室を出てまっすぐ目的地に向かっていた。夕暮れで赤く染まった廊下を。人通りのいつも通り少ないその廊下を歩いて、君との唯一のつながりの場所へ。
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