9.昼ごはん

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塚本くんは俺の食べるおにぎりを見て、弁当を食べる箸を止めた。コンビニのおにぎり1つじゃ、金持ちの彼には粗末過ぎる昼ごはんに映るのだろう。一方で塚本くんの弁当は思った通りぎっしりと詰まった豪華なお弁当だ。彩りも豊かで本当に美味しそう。高級なお弁当屋さんとかで売っていそうな感じ。こんなものを毎日食べれるなんて本当に羨ましい限りだ。


「先輩それだけですか」


「これだけです」


「だからそんなガリガリなんですよ」


「お前も細いじゃん」


「俺は細身だけど筋肉あるんで」


なんとなくバカにされている気がする。俺だって筋肉ぐらいある。でも確かに数年前と比べれば随分と痩せた。朝ごはんは食べないし、昼は購買で買っているが、バイトのお金をあんまり使いたくなくて、大体おにぎり一個とかパン一個だ。夜ご飯は家で食べるから食欲湧かないし。ここ最近はちょっとしたことで戻してしまうことも増えたしな。


「俺、先輩の分のお弁当も作ってもらいます」


「いらない」


塚本くんのありがたい申し出。だけどそれお前が作るわけじゃねぇだろ。そりゃ食べたいとは思うが、顔も知らない彼の家の人にそこまでしてもらうわけにもいかないだろう。俺がお礼に返せるものなど何もないし。そんな風に何かをもらってしまっては、今の対等な関係性が崩れてしまう気もする。俺はこの関係が気に入っているんだ。そしてそれが壊れることが俺はひどく怖い。彼はそんな俺の気持ちなど理解できないようで、これまたしつこく食い下がってくる。しかし今回ばかりはさすがに譲らなかった。

しばらく考え込んでいた彼は、思いついたように今度は別の案を提案してくる。


「じゃあ俺が作ってきます」


「料理とかできんの?」


「いいえ」


「……やだよ。不味そう」


苦い顔をしてそう返すと、彼は顔をしかめて俺のおにぎりを指差す。


「そんなの食べるより百倍マシです。ちゃんと栄養考えてくるんで」


「いやだからさ、そういう問題じゃなくてさ。お前から一方的にもらうのが嫌なんだって」


「じゃあ先輩も作ってきて交換しましょう」


「それ交換しなくてよくね。作るなら自分で食うわ」


なかなかに了承しない俺に顔をしかめて悩み始める。いいって言ってんのに。残り一口になったおにぎりに視線を落とす。本当に今はこれでお腹いっぱいになれるんだ。満腹とはいかないが、放課後に腹が鳴ることもない。栄養的には偏っているのかもしれないけど、味だって美味いし今まで食事のことでの悩みなんてなかった。言われてみれば自分の手首は骨と皮にも見える。簡単にぽきっといってしまいそうな。毎日見てるからそんなに気にならないが、こうやって心配してくれるほどには今は不健康そうなのだろう。


「もういいです。じゃあ自分で弁当作ってきてください」


「無理無理」


「面倒くさいはなしです!」


ひどく不機嫌なぶすくれた顔で睨まれる。面倒くさいよ。お前がもう面倒だよ。てか、そういう問題じゃねーし。


「料理なんかしたら台所汚しちゃうだろ」


「……当たり前じゃないですか」


「どこに何があるかもよくわかんねーし」


「聞けばいいじゃないですか」


「迷惑だろ、そんなの」


俺の言葉に首をかしげる。何が迷惑?とでも言いたげな顔。


「そうですかね?」


「そうだよ」


やはり納得いかないという顔をしている。俺は詳しく話を掘り下げられる前に退散しようと、最後の一口を放り込んだ。俺は内心焦っていた。なんでこんな疑問を抱かれるようなことを口にしてしまったのだ。


俺がごちそうさまと手を合わせることで、この話は無理矢理終わりになった。


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