第4話プルトップの魔法

 キノちゃんは小学校に通う女の子。

いつも元気一杯です。一年生にしてはちょっとちっちゃいキノちゃんですが、夢はとってもでっかいのです。


 キノちゃんの夢・・・


それは、


<ママに車椅子を買ってあげる事>


 実はキノちゃんのママは足が悪くて、いつも車椅子に乗っているのです。でもちょっと、古くなって来ていました。ママはキノちゃんのママになる前からその車椅子に乗っているのです。


キノちゃんが生まれてからは、キノちゃんをよく膝の上に乗せて走ってくれました。キノちゃんは、車椅子が大好きなんです。


 パパはよくママの車椅子を洗っています。大事に乗ればまだまだきれいだっていつも言っています。キノちゃんもよくお手伝いをしていました。でもその車椅子・・・ちょっと重たいんです。


 そんな時、キノちゃんの小学校では、<プルトップ集めで車椅子を送ろう>と言う運動が始まりました。

「プルトップで車椅子がもらえるのかなぁ?」

キノちゃんは、先生に聞いてみました。先生はプルトップやアルミの缶を一杯集めると車椅子を作る材料になると教えてくれました。


 キノちゃんは、ひらめきました!

アルミ缶やプルトップを集めてママに車椅子をプレゼントしてあげよう!って。

この日から、キノちゃんの夢が始まりました。毎日、毎日、キノちゃんは色んな人にお願いしてプルトップを集め始めました。

「キノちゃん、学校で集めてるんだってね。頑張ってね。」

近所のおばちゃんたちは、キノちゃんを応援してくれました。


 でも実は、キノちゃん。学校には一度も持って行った事がないんです。いつも集める係の子に、

「キノちゃん、プルトップ集めて来てよぉ」

と怒られていました。それでもキノちゃんは、ママの為に一生懸命集めていました。


 そうです。

キノちゃんの夢は誰も知らないのです。キノちゃんもプルトップを車椅子に変えてからママを驚かせようと思っているのです。


 ところが、いつまでもプルトップを持って来ないキノちゃんを不思議に思った先生が、おうちへ電話をしてしまいました。キノちゃんのママはずっと先生の話を聞いていました。


 その日の放課後。キノちゃんはいつもの様に近所のお店に寄り道をして、プルトップをもらうと、家に帰って来ました。

「ただいまぁ」

「お帰りなさい。キノ、手を洗ったらママのところに来てちょうだいね」

ママはいつもと変わらない言い方でキノちゃんに伝えました。

「は~い」

キノちゃんもいつもと同じです。そして、手を洗ってママのところに来ました。


 ママは、先生からの電話の事をキノちゃんに伝えました。キノちゃんはビックリ。まさか先生から電話があったなんて・・・

「キノ、毎日もらって来るプルトップ、どうしてるの?ママ、学校に持って行ってると思っていたのに・・・」

ママに聞かれてもキノちゃんは本当の事が言えませんでした。黙っているキノちゃんを見て、ママはそれ以上何も言いませんでした。


 次の日、キノちゃんは泣きながら起きて来ました。パパもママもビックリです。

「どうしたの?キノ。」

パパとママは聞きました。


キノちゃんは、

「これ、学校に持って行きたくないの!」

と、手にはたくさんのプルトップの入った箱を持っていました。

「どうして持って行きたくないか、ちゃんと理由があるんでしょ?パパとママにも教えられないことかなぁ?」

ママが尋ねました。


キノちゃんは、どうしても言い出せないで居ました。だって、車椅子になるまでナイショで頑張ろうって決めてたんだもん。ママの喜ぶ顔を毎日毎日想像して頑張ってたんだもん。今言っちゃったら、キノちゃんの夢も壊れちゃいそうだって思ったのです。


そんなキノちゃんを見てパパが、

「キノ、ちょっといいかな?」

とママの側から離れて別の部屋にキノちゃんを連れて行きました。キノちゃんは、きっと怒られるって思っていました。


ところが・・・


「キノ、ママには言えない事なんじゃないかな?」

と、パパがニッコリ笑って言うのです。キノちゃんはビックリでした。怒られると思っていたのに、パパは笑ってくれているのです。

「キノの思い、当ててもいいかな?」

パパが言いました。


「え?キノの思いってパパ、分かるの?」

キノちゃんはいつの間にか泣き止んでいました。

「間違ってるかもしれないけど、パパだったらこう思うなぁってのと、キノの思いがもしかしたらおんなじかなぁ?って思ったんだ。当ててもいいかな?」

パパはとても優しそうな笑顔で言いました。


「いいよ・・・当たるかなぁ?」

キノちゃんもなんだかちょっと元気が出ていました。

「キノは、このプルトップに魔法をかけようとしてるんじゃないかな?」

「まほう?」

「そうだよ。魔法だよ。キノはこのプルトップを車椅子に変身させてママにプレゼントしようと思ってたんじゃないかな?」


キノちゃんはビックリです。


パパはどうして分かったんだろうってね。

「パパ!スゴイ!当たりだよ!どうして?」

キノちゃんはパパに聞きました。

「だって、パパだって、いつもおんなじ事、思っててね・・・ちょっとおいで。」

パパは、屋根裏の階段を下ろしました。そして、キノちゃんを抱っこして屋根裏に上りました。

 そこにはなんとたくさんのプルトップ!実はパパもママのちょっと古くなった車椅子を新しくして上げたいって思っていたのです。


「パパ!これ、全部パパが集めたの?」

キノちゃんは大興奮です。

「そうだよ。でもこれだけじゃ、まだまだ足りないんだ。ママに見付からないうちにちゃんと貯められるかなぁ?」

「大丈夫!きっと貯められる!キノも一緒に貯めるもん!二人でこのプルトップに魔法をかけよう!」


キノちゃんはとっても嬉しかったのです。一人で頑張ろうと思っていた昨日までとはまるで違い、なんだかホッとしていました。

「キノが一人で頑張って集めた分は少しだけ、学校に持って行かないか?そうすれば、ママだけじゃなくて他にも車椅子を待ってる人たちの為にプルトップの魔法がかけられるよ?」


パパの提案にキノちゃんは大賛成。ママだけじゃなく、たくさんの人が喜んでくれたら・・・それはとっても嬉しい事なのです。

 キノちゃんは、たくさんのプルトップを持ってリビングに下りました。

「おはなしは、終わったの?」

ママは朝ごはんの支度を終えて、二人を待っていたのです。

「うん!終わったよ!」

キノちゃんはとびっきりの笑顔で答えました。


「あら?プルトップ、持って行くの?」

ママはキノちゃんの持って来た袋に気が付きました。

「うん!プルトップに魔法をかけて、幸せに変身させるの!」

「そう。それはとってもいい事だね。」

ママはニッコリ笑って言いました。


(もちろん、ママにだってプルトップの魔法、掛けてあげるからね♪)


キノちゃんは、心の中でそう思っていました。

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