あかり紀子の童話集

あかり紀子

第1話「あそぼう」って言えるかな?

 こうちゃんは いつも お友達に意地悪をしちゃいます。

どうして?って聞かれると とってもこまっちゃうんだけど、

お友達が 遊んでいると つい、意地悪したくなっちゃうの。

だから いつもお友達は こうちゃんが近付いてくると、

「わぁー!こうちゃんだ!逃げろぉーーー!」

って逃げて行っちゃうの。


こうちゃんは お友達と遊びたいだけなのに

どうしても 「あそぼう」が言えないの。

「あそぼう」の代わりに 意地悪しちゃうの。


ある日 こうちゃんは考えました。

(今日は みんなに ちゃんと 「あそぼう」って言おう!)

ってね。

おウチで何度も何度も練習した「あそぼう」って言葉。お友達の前でちゃんと言えるかな?

鏡を見て 笑顔で「あそぼう」って言う練習もしたよ。

意地悪するんじゃなくて一緒に遊べたらいいなぁ~って考えながらね。


 こうちゃんは 家を出て公園に向かいました。

お友達は 先に来て遊んでいます。こうちゃんは おウチで練習したように ニッコリ笑って お友達に近付いて行きました。

こうちゃんに 気付いたお友達が、

「あっ!こうちゃんだ!逃げろーーーー!」

って大きな声で言いました。他のお友達もその声に驚いて逃げようとしています。


さぁ!こうちゃん どうする?


「待って!」

こうちゃんは 叫びました。でもお友達は 待ってくれません。

結局、今日もお友達とは遊べませんでした。


ちゃんと練習したのに・・・

一生懸命練習したのに・・・


こうちゃんは 悲しくなってしまいました。でもしょうがないのです。

だって、今までお友達に とってもいけない事をしてたんだもん。お友達だって 何度もこうちゃんを入れて遊んでくれようとしていたんだよ。その時に 仲良く遊べなかった こうちゃんにだって いけないところがあったんだよね。


 誰も居なくなった公園でこうちゃんは ひとりでブランコに乗っていました。

「みんなと遊びたいなぁ・・・」

こうちゃんは そう呟きました。すると・・・

「一緒に遊ぼうよ♪」

と、声がしました。声の方を向くと、そこには どこかで見たような気もしたのですが 思い出せない顔の子が立っていました。


こうちゃんは ちょっと・・・いえいえ、とっても嬉しくなりました。だって、こうちゃんはとっても久しぶりに お友達と遊べるんだから。


「こうちゃんと 遊んでくれるの?」

こうちゃんは、尋ねました。その子は ニッコリ笑って頷きました。こうちゃんも 嬉しくなってブランコから飛び降りました。

「何して遊ぶ?!」

こうちゃんの声も 弾んでいます。その子は、ブランコを指差して言いました。


「ぼくね・・・あれに乗った事がないの。だからあれに乗って遊びたいな」

「えっ?ブランコに乗った事がないの?」

こうちゃんは ビックリして尋ねました。だって、年はこうちゃんと同じくらいなのに ブランコに乗った事がないって言うんだもん。


 その子は、ちょっと寂しそうに頷きました。それを見たこうちゃんは、

「じゃあ、乗ろうよ!」

と言って、その子の手を捕まえるとブランコに走って行きました。そして、その子をブランコに乗せると、

「しっかり捕まってないと 落っこちちゃうからね」

と言ってから ゆっくりとその子の背中を押しました。


その子も 最初は怖がっていましたが やがて少し慣れて来たのか、楽しそうに

「すごいねぇ。楽しいねぇ」

と言いました。その子の笑顔を見てるとこうちゃんまで楽しくなってきました。


 しばらくその子の背中を押していたのですが、こうちゃんも乗りたくなってしまいました。

「次は 君がこうちゃんの背中を押してよ」

こうちゃんが言うと、その子は

「うんっ!」

と言ってブランコから降りようとしました。ところが・・・


「痛いっ!」

なんと、その子はブランコから降りようとした時に落ちてしまい膝をすりむいてしまいました。その子は泣き出してしまいました。でもこうちゃんは どうしていいのか分かりません。


 いつものこうちゃんだったら、

『なんだよっ!そんな怪我!平気だろっ!』

と怒ってしまう所です。でも今日のこうちゃんは、違いました。

(どうしよう・・・血が出ちゃってる・・・)


心の中では ドキドキしていました。そして、洋服のポッケにハンカチがあるのに気が付くと、そのハンカチで 怪我したところの血を静かに拭き始めました。ハンカチが当たるたびにその子は、

「痛っ・・・」

と叫びます。それでもこうちゃんは、

「砂が付いてると『バイキンくん』が身体の中に入っちゃうんだって。だから『バイキンくん』だけ取っちゃうから我慢してね・・・」

と優しく言いながら拭き続けました。やがて擦り傷の周りの砂はキレイに取れました。ついでに出ていた血もすっかり止まったようです。


 その子はとても嬉しくなり、

「ありがとうっ♪」

と笑顔で 言ってくれました。こうちゃんは ドキッとしました。今まで誰かに『ありがとう』なんて言われた事がなかったのです。ちょっぴり照れくさいけど とってもいい気分♪

こうちゃんは 嬉しくなりました。


 こうちゃんの顔を見たその子は、

「もう大丈夫だね」

と言いました。

「うんっ!もうすぐに治っちゃうよ♪」

こうちゃんが答えると、

「違うよ。こうちゃん、もうみんなと一緒に遊べるよ。だって、こんなに優しいんだもん」

その子は ニッコリ笑って言いました。

「えっ?。。。」


こうちゃんは 何を言われているのか分かりませんでした。だって、その子、今日初めて逢って こうちゃんがみんなと仲良く遊べない事も その理由も知るわけないのに みんな知ってるみたいに言うんだもん。


そんなこうちゃんにその子は、

「ぼくね、ずっと前、こうちゃんとおんなじように お友達と上手に遊べなかったの。だからこうちゃんを見ていたら とっても心配になっちゃったの。今日、こうちゃんがみんなに頑張って声を掛けた時も みんなは逃げちゃったでしょ?僕もそうだったんだ。ぼくは最後までお友達と仲良くなれなかったから こうちゃんには お友達と仲良くして欲しいって思ったんだ」


「ぼくね、寂しかったのにお友達に優しくして上げられなかったの。今のこうちゃんみたいに 優しくして上げられなかったんだ。こうちゃん!もう大丈夫だよ。きっと君はお友達と仲良くなれるよ。今日は逃げられちゃったけど 諦めないで明日もお友達を誘ってみてね。お友達が困ってたら 今日みたいに優しくしてみてね。そうすればきっとこうちゃんにも お友達が戻って来るからね・・・」

そう言うと、スーーーッと消えてしまいました。


 こうちゃんは、何が起きたのか分かりません。

だって、さっきまで遊んでいた子が居なくなっちゃったんだもん。公園には こうちゃんしか居ません。何処を探してもその子は居ません。

「おーーーーーいっ!何処行っちゃったのぉー?」

こうちゃんは あっちこっち探しました。でもやっぱり見付かりません。そのうち、公園にママが迎えに来ました。

「こうちゃ~ん♪もう帰る時間だよぉ~♪」


 こうちゃんは 今日の事をママに教えました。ママはこうちゃんの話を黙って聞いていて、最後に・・・

「それは きっと こうちゃんのお兄ちゃんだよ。こうちゃんのお兄ちゃん、あのブランコから落っこちちゃって、お空に行っちゃったのよ。やっぱりお兄ちゃんねぇ~♪こうちゃんが心配になって助けに来てくれたのねぇ~♪」

と教えてくれました。


 こうちゃんには ずっと前にお空に行ってしまったお兄ちゃんが居たのです。こうちゃんみたいにやんちゃで お友達とうまく遊べなかったお兄ちゃんです。お兄ちゃんは最後までお友達とうまく遊べないまま、お空に行っちゃったんです。


だから、きっとこうちゃんを心配して来てくれたんだね。

「あのブランコで?だからブランコに乗った事がないって言ったのかな?お兄ちゃん、ちゃんとブランコに乗ってみたかったんだ♪・・・ママぁ~♪お兄ちゃんのこと、もっともっと聞かせて!」

こうちゃんは ママにお願いしました。

ママは、ニッコリ笑ってお兄ちゃんの色んな事を教えてくれました。

こうちゃんは お兄ちゃんの話を 目をキラキラさせて聞いています。そして、お空に向かって

「お兄ちゃ~~ん!ありがとうぉ~~~~~~~!」

と、叫びました。

その姿を空の上から見ているお兄ちゃんに気が付いたかな?

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