第2話
「……消えた、か……」
一見何も反応していないのを装っているが薄く目を開けている。どうやら早速考え始めたらしい。出足はよさげだ。
「事件が起きたのは昨日のことです。このクラブ棟に部室を構えている美術部室でです。彼らは文化祭のために絵を作っていました。もちろん、小さなものではなく、それなりにしっかりとしたものですので、持ち出そうとしたら誰かに目撃される可能性が高いです。ところが誰かがもちだしたような目撃証言は上がっていなくて、かつ目撃されないように盗み出そうとした場合、鍵がかかった美術室を突破しないといけないのです。そういえばこの前、密室トリックに悩んでいると聞いたので、もしかしたらと思って持ってきたのですが、それならば仕方ないです。美術部の皆さんには断られたと伝えてきます」
なるべく急いで、たたみかけるように心がけて、僕は彼女に伝えた。きっとこうすれば彼女は僕の依頼を受けてくれる。
その証拠にほら。
「待ってくれ」
彼女はため息をつきながらも、こうして僕を引き留める。
「もう少し話を聞かせてくれ」
僕は内心ほくそ笑んだ。やっぱり笹谷有紀は自信の興味には勝てないし、何よりお人好しなのだ。
「もちろん、調べてありますよ」
僕は立ち去ろうとした体を止め、彼女の方に向き直らせてから話し始めた。
「事件が起きたことに気づいたのは今日。発見者は美術部員全員です」
「であるならば、事件が起きたのは昨日か」
「ええ」
この部活棟は、部活が終わるたびに教員によって施錠される。部活はじめに気づいたということならば、施錠がされていない昨日の部活中に盗まれたと言うことだろう。
「ではこれから証言を話していきます。最初の部員をAとします」
これも笹谷有紀の特徴だ。彼女は事件の当事者の名前を知りたがらない。「必要ないからだ」と彼女は言うけれども、実際はそうではない。彼女は、個人名とかを知ってしまうと、自分が正当な判断ができなくなると知っていたからだ。お人好しな彼女は、そんな風にすることで自分に枷を書けている。全く、探偵に向きすぎているじゃないか。
僕は彼女に話すために、自分が聞いた目撃者たちの話に思いを巡らせた。
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