第35話・反撃と停滞とー7
冬人達は、教室を出ると、すぐにA棟の屋上に出た。
ここの屋上は、外から鍵が掛けられる。
廊下に出てすぐ、六人の間でこんなやり取りがあった。
攻めるのか、逃げるのか。
しかし、それは議論するまでもなかった。
少なくともこのメンバーの中で、他人の年齢を奪ってまでお金を貰おうという発想の持ち主はいなかったからだ。
では、時間まで逃げるのに最適な場所は、という事になり、ここに至る。
幸い外は春の陽気で暖かかった。
太陽も薄雲に隠れて、時間をつぶすにはちょうどいい場所だった。
五人の気が緩み、誰もがその場にへたり込む中、冬人だけは難しい表情をしていた。
「ちょっと、気になることがあるんだけど」
そう言った冬人に、皆が弛緩した顔を向けた。
冬人がそれを思い出しそうになったのは、目の前で十代と思しきグレースーツの男が、見る見るうちに四十代へと変化した時だった。
その時は、何かを思い出しそうなのに、思い出せないもどかしさを感じていただけだったが、スピーカーの音が入った瞬間、それを思い出した。
「一年前、駅前の公園で、セーラー服を着た老婆が死んでいたって事件、あったよね」
「ああ、あったな。正確には去年の秋だから、半年前だけどな」
「見た見た。丁度選挙カーと救急車の音とでうるさかったの、憶えてる」
そう答えたのは、電車通学の壮太と美香だ。
「校内で噂にはなったけど、ニュースでやってなかったし」
「私も‥‥‥詳しくは‥‥‥」
香織と
無言で冬人の言葉を聞いている
「僕は、たまたま駅前に用事があって、その現場を見たんだけど、あれだけ警察や野次馬が集まった騒ぎだったのに、地元のニュースにもならなかったのは、なんでだったんだろって」
冬人の言葉に壮太が続いた。
「僕は救急車に乗せられてる現場を見て、警察の人になにがあったのか聞いてみたけど、おばあさんが倒れてて、息を引き取ってたって。多分、老衰だから事件性はないだろう、とも言ってたよ、確か」
そこまで言うと、壮太は何かに気付いたように目を見開くと、人差し指を眼鏡に当てた。
「まさか、その老婆って‥‥‥」
「その可能性は、限りなく高いと、僕は思う」
冬人は、その真剣なまなざしを、壮太に向けた。
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