第33話・反撃と停滞とー5

「あの時、本気で止めておけばよかった‥‥‥」

 あかりは、並樹の遺体の脇にしゃがみ込むと、両手を合わせて目を閉じた。

「ごめんね、枕元君、ごめんね」

 ずっと我慢していた雫が頬を流れ、床を濡らした。


「桜田‥‥‥さん」

 満里奈は、あかりの背中に手を当てた。

 涙を拭うことなく、あかりは振り向き、そしてゆっくりと立ち上がった。


「ごめん、もう大丈夫だから」

 その言葉は、仲間に向けられたようにも、並樹に向けられたようにも感じられた。

 人差し指で頬を拭うと、あかりは足元に落ちている、並樹のナイフを拾い上げた。


(私に危険が迫ったら、並樹君、守ってね)

 心の中でつぶやくと、ポケットにナイフを入れた。


「行こう、皆」

 あかりの言葉に、皆が無言で頷く。

 皆の力強いその表情にお互いが励まされながら、あかり達は教室を後にした。


 やがて、教室内には、淳と康孝が取り残された。

「‥‥‥どうする」

「って、言われても」


 しばらく無言が続いた。


「こ、ここに居るか」

「あ、ああ、そうだな」


 元来度胸などなく、ただ修の言いなりになっていただけの二人は、教室に残ることにした。


 そんな二人の存在を気にすることなく、グレースーツの女は机にノートパソコンを広げると、何かを見始めた。


 どうやらこの女もまた、この教室から出る気はないようだった。


ーーーーーーーーーー


 先頭を切って教室を出ていった美玖みく達は、体育館裏の倉庫前に居た。


 倉庫は本来、外部からは丸見えなのだが、今は3mの高い壁に遮られ、どの位置からも死角になっている。


 体育館の両脇から挟み撃ちされる危険性もあったが、体育館のすぐ左脇はグラウンドになっていて、近付くものがあれば、はるか遠くからでも、すぐに認識出来る。


 右側のすぐ隣には5m程離れた所に室内用弓道場があり、間には砂利が敷かれているだけなので、何かの陰に隠れて、こっそり近づく事も出来ない。


「後は獲物が来るのを待つだけね」

 美玖の言葉に、晴海と真子が頷いた。

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