第11話・始まりの朝ー10

 修は、自分を取り押さえていた二人の男の腕を、力任せに振り解くと、たった今バスから降りてきた男に向かっていった。


 修は男の目の前に立つと、両手をポケットに突っ込んで、肩を揺らしながら言い放った。

「誰だ、お前」

 男は無言のまま、視線を修に向けることなく周りを見回している。


 男に無視されたことで、修は声をさらに荒げた。

「俺達に、何させようってんだよ、ああ?!」

 その言葉に、女の方が口を挟んだ。

「何もしませんよ。バスの中ではね」


 小馬鹿にされたと感じたのか、修は更に声を荒げていった。

「んなこたぁ分かってんだよ。この後何させんだって聞いてんだ」


 普段は嫌な奴だが、この時だけは頼もしいと、誰もが感じていた。

 修がいなかったら、皆言われるままに素直にバスに乗り込んでいただろう。

 実際、普段は修と共に威張り散らしている取り巻きの三人も、この時ばかりはビビッて前に出ようとはしなかったのだから。


「百億円」

 男のいきなりの言葉に、修は目を見開いた。

「欲しくないですか」

「な、何言ってんだお前」

 突拍子の無い男の言葉に、修は戸惑いを隠せなかった。


「ジンさん、まずいですよ、ここではちょっと・・・」

 女の方が口を挟んだが、ジンと呼ばれたその男はいたって冷静だった。

「まあ、そのチャンスが待っているという事ですよ」

 次の言葉が見つからないのか、修は黙りこくってしまった。どうやら次の反論の言葉を必死に考えているようだ。


 そこに、松山壮太まつやまそうたが歩み寄っていった。

 彼こそが、海を毎回学年二位にさせている元凶。つまり、常に学年一位を守り続けている、この学校一番の秀才。


 壮太は鼻先に右手の中指を近付けると、黒縁の眼鏡に当てて、少し眼鏡を持ち上げる仕草をした。カッコいいと思っているのか、元々の癖なのか、壮太は人に話しかける時は、必ずそうしていた。


「その話、もうちょっと聞きたいのですが」

 壮太が問いかけると、ジンは右の手のひらを壮太に向け、どうぞという動作をした。


「僕達が、逆に借金を背負うという事は?」

「ない」

「では、プラスはあってもマイナスはないと」

「マイナスがないというと嘘になるが、少なくともお金は取らない」

「では、そのマイナスってなんですか」

「それは、現地で説明する」


 ここまで話すと、壮太はバスに向かった。

「僕は乗るよ。それがゲームであれ、謎解きであれ、クリアしてやるさ」


 この話に興味を持った壮太は意気揚々とバスに向かっていった。

 だがそれを、黒服の女の方が静止した。

「女子が先です」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る