第3話・始まりの朝ー2

 冬人は美香のスク水姿を思い出していた。そんな自分の心が読まれてしまうんじゃないかと思うと、更に心臓のBBMが高い数値を叩きだしてしまう。


 着やせしているのか、その胸は手の平では収まらない程度には大きく、お尻も制服姿からは分からないが、意外と大きくて丸い。それでいてウエストは折れてしまいそうなほど細い。


「で?」

 美香に声を掛けられて、冬人は我に返った。

「で、って?」

「だから、穂高君はなんでこんな朝早くから学校に来てるの?」


 冬人は失敗した、と思った。あんなこと聞けば聞き返されるのは目に見えてるのに、そこに思いが至らなかったからだ。


 何か言い訳を考えないと。それとも話を逸らそうか。

 再びクラス表に目をやり、黙読しながら必死に次の言葉を考えた。

 何度も目を通している内、冬人はある違和感を感じて、美香に向き直った。


「ねえ」

「ん?どうしたの」

 冬人はそれだけ言うと、再びクラス表へと視線を投げた。


「ちょっと、何々、怖い顔して」

「今度のクラス、やけに極端じゃないかな」

 そこには冬人や美香の他に、学校始まって以来の不良と言われている天木修あまきしゅうとその取り巻き三人組が揃っていた。


 それだけではない。


 修からのいじめを受け、何度も先生に相談していた枕元並樹まくらもとなみき、成績学年トップの松山壮太まつやまそうた、援助交際を噂されている棚卸美玖たなおろしみく、不登校の相良睦美さがらむつみ、他にも明らかに癖のある名前がそこには並んでいた。


「極端って何が?」

「何がって‥‥‥」

 (もしかしたら嶋さんは本当に何も感じていないのかもしれない)

 冬人はそう思った。そういう性格だからこそ、誰にでも平等に接してくれてるんだと。


 そしてもう一人、見覚えのない名前がそこには書かれていた。

福山赤司ふくやまあかし


「なあ、嶋さん、こいつ誰」

 冬人はその名前を指さして聞いてみた。

「さあ、転校生かな」


 アクの強いクラスメートに転校生。冬人はこれから先の事を思い、いわれの無い不安に襲われた。

 しかしその不安が早い段階で的中する事になるとは、この時の冬人は想像もしていなかった。


「じゃあ、私行くね」

「あ、ああ、後でな」

 美香の質問返しを上手く誤魔化せた事は、この時の冬人にとってはもうどうでもいい事だった。

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