キミの隣に

なのはな

第1話 出会いの日

出会ったのは、あたしが引っ越して来た、始業式の前日。



「よいしょっと……」


重い段ボール箱を下ろすと、あたしは部屋を見渡した。


部屋には数個の段ボール箱が置いてあるだけで、特に何もない。


そりゃそうだろう。


ここは元々空き家だったんだから。


あたし――宮野みやの 優花ゆうかは、今日からこの家に住む小学五年生。


前は長野に住んでいたけど、引っ越して東京にやって来た。


五月に転校生なんて珍しいから、新しいクラスメート達に騒がられるだろうな。


「おーい、優花ー」


段ボールから荷物を出していると、一階にいるお父さんから呼ばれた。


返事をして階段を下りると、お父さんは紙袋を持っていた。


「これ、引っ越しの挨拶にって、隣の瀬川さんの家に手土産を渡してくれないか? お父さん、荷物の整理で忙しいから」


「しょうがないな~。じゃ、行って来るね」


本当は知らない人と話すのは苦手だけど、大人の人なら頑張れば大丈夫。


チャイムを鳴らし、しばらくして出て来たのは、その家の主人とかじゃなくて、あたしと同じくらいの背丈の男の子だった。


まさか男の子が出るとは思わなかったから、あたしはついあたふたして、練っていた挨拶のセリフも口から出てこなかった。


「あ……えっと、その……」


はっきりとした言葉を発しないあたしを見て、男の子は首を傾げる。


ああっ・・・何か言わないと・・・!


だけど中々言えず、上から下、下から右、右から左、左からまた上へと視線をころころと変えていると、男の子はあたしの持っている手土産を見て、なにか納得したような顔をした。


「もしかして、引っ越しの挨拶か?」


「う、うん……!」


あたしは大きくうなずいて、手土産を差し出した。


「わざわざありがとな。後でお返し持って行くから。俺、瀬川せがわ 壮真そうま。お前は?」


「宮野優花。よろしく、お願いします……」


「敬語とか使わなくていいから。よろしくな、優花」


壮真くんは、ニコッと笑ってみせた。


意外と上手く話せたし、仲良くなれそうでよかった。


あたしは安心して、家へと戻った。


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