第六回
エキストラの撮影は一ヶ月後。楽しみな気持ちが胸いっぱいで、学校でもそれは変わらず上機嫌で海人に話しかける。
「聞いて聞いて海人! あたし、エキストラ選ばれたよ!」
「前に言ってたやつ? スゲーじゃん」
「うん! 百瀬さんのトークショーに言ったらマネージャーさんに声掛けられてさ」
「は? マネージャー?」
素直に喜んでくれると思ったら、突然訝しい顔になる。
「何で俳優のマネージャーが一般人に声掛けるんだよ」
「トークショーによく行ってて、それで顔覚えててくれたんだって」
「ふうん……それって超限りなく少ない可能性じゃん。そういうこと詳しく知らねえけど、変なのに騙されるなよ」
海人のその言い方はなんだか癪だ。
「何それ。バカにしてる?」
「そうじゃねえけど、知らないヤツにホイホイついてくなよってことで」
「そんなの海人に関係ないじゃん!」
赤城は爆発させた気持ちをぶつけて、そのまま振り返らず下校していった。残された海人は虚しく呟く。
「心配してるだけじゃんかよ……」
エキストラ撮影当日。エキストラの受付を済ませて会議室へ集まった。出番までにどんなことをするのか流れの説明を受ける。内容としては、怪人に壊されていく町中を逃げるようだ。
「そこの女の子」
「え? あ、あたしですか?」
「中学生かな? ちょっとこれやってほしいんだけど」
エキストラ登録は十六歳以上でしょうが。中学生なわけないでしょ。
文句は心の中にしまっておいて、どうするのか台本を見せてもらった。
「いいんですか!?」
「キミくらいの女の子にやってほしいと思ってたんだよ」
やってほしいこととは、倒れてくる柱の下敷きになりそうなシーン。そこにヒーローがやってきて間一髪で助けてくれるというものだ。
あたしは二つ返事で了承する。
「では決まったのでそろそろ撮りまーす。各自準備してくださーい」
撮影本番だ。本物の撮影のセットに緊張が高まる。監督の合図によって撮影が始まった。エキストラの人たちが散り散りに逃げていく。
助けてくれるのは大牙君なのかな? それとも他のメンバーかな?
そうこう考えていたら出番がやってきた。
カメラの前に出ていって転ぶ演技をする。
「カットカット」
「え」
「キミね、もうちょっと自然に転んでみて」
「あ、はい」
意外とわざと転ぶのって難しい……。役者さんってこういうの自然に出来るんだ。
監督の合図で再び開始。少し前のシーンからで、あたしは思い切り走っていった。
「わあっ!?」
緊張と焦りで足が絡まった。そして本当に転んだ。意地でも演技を続ける。見上げて倒れてくる柱を凝視して、もう駄目だと諦めて目を瞑る。数秒後目を開けると、柱を下から支えて助けてくれるヒーローが目の前にいる。
「!」
「大丈夫か!」
「……っ」
「ケガをしてるのか!?」
「あ……、だ、大丈夫です! ありがとうございます!」
あたしは立ち上がり、お礼を行って立ち去った。それからヒーローは別のヒーローとの会話をする。そこでカットが入った。
「いいね。よし、続き行こう」
自分の出番はもう終わった。エキストラ全員の出番が終わり、各自帰っていいとのことだ。けれど緊張はまだ解けない。手も足も震えた。
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