第3話-「相原優月です。よろしくお願いします!」②

 不良。自分の見てくれを一言で表すなら、それが一番似合っていることは篤自身もわかっていた。


 いつも怒っているような鋭い三白眼。引きつった頬に薄い眉と黒の短髪。無愛想に結ばれた口元には先日練習試合でもらった青あざがまだ残っている。身体も筋肉質に引き締まっているし、背だって百七○を余裕に超えて威圧的だ。これで中指でも立ててみた日にはそこらのゴロツキとは比にならないほど素行に難ありの人間。


 人ごみを歩けば自分の周りにだけ空間ができるし、教室の戸を開けるだけで一瞬空気が静まり返る。クラスメイトも敬語で話しかけてくることが多い。それが早乙女篤だった。


 だが、そんな篤にも穏やかなパーツはある。すっきりとした鼻筋にやんわりとした二重の瞼。瞳だって目つきが悪いだけで、しっかりと見開けば長い睫毛と相まって可愛らしい目をしている。どれも全て母親譲りだ。 だが篤はそれが嫌いだった。理由は簡単である。母親譲りだからだ。


 篤がもう一度ため息をつくと、洗面所の脇においてあった携帯電話が光る。唯一の友人とも言える竜也たつやからのメールだ。


『転校生の子、可愛いといいなぁ! 楽しみすぎて早く起きちまったよ!』

「――あのバカ」


 思わず言葉がこぼれる。

 そういえば昨日の帰りに担任が今日付けで転校生が来ると言っていた。女だそうだ。教室はやたらと盛り上がっていたが、篤にとって気持ちの良い話ではない。同じ空間に嫌いなものがひとつ増えるだけ。


「……チッ、胸糞悪い」


 篤はタオルを投げ捨てて、もう一度サンドバックに向かう。今日はぎりぎりまで撃ち込むことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る