私は、僕は昨日失恋した。

@aqly

第1話 失恋

私は失恋した。

傷心し尽くした私は薄暗い部屋の中で、1人蹲っていた。まるで生まれたての子鹿のようにプルプルと震えながら、布団を被りあの人への想いを馳せる。

ずっと好きだったあの人が手のひらをすり抜けるようにいなくなってしまった。

まるで何も無くなってしまったみたいに。

大好きだった手が、掴みたかった手が見えないところまで行ってしまった。

もうあの人には会えないのだろうか。

あの人の顔が頭に浮かぶ。

ずっと好きだった人、大切だった人、私を助けてくれた人。

好きだった。大好きだった。

私の全てだった。

今の私には何も無い何も無い何も無い。

「ッ.......。」

ぼたぼたと涙が溢れる。あの人との思い出が走馬灯のように目の前に広がる。

春、桜の木の下で私から告白したときに少し困りながらも返事をくれたこと。

夏、花火大会で一緒に手をつなぎながら花火を見てくれたこと。

秋、一緒に紅葉を見に行って写真を撮ってくれた事。

冬、雪合戦をして、雪まみれになりながら登校して2人で怒られたこと。

そして、私をいじめから助けてくれたこと。

こんな取り柄も何も無い私を好きでいてくれたこと。

全部全部、感謝しかない思い出。なのに、なのに私はあの人の事をちゃんと見ることが出来ていなかった。

ありがとうと伝えることも、ごめんねと謝ることも出来なかった。

私は悔しくて仕方が無かった。

溢れ出た涙が夕立ちのように布団に模様をつける。誰もいない部屋で自分の鼻をすする音だけが響いていた。

私は一生自分を許せないだろう。

こんな自分なら消えてしまいたい。いや、消えるべきだ。そんな自問自答繰り返しをしていた。


3日間の月日が流れた。

毎日のように泣いていた私の目は爆発寸前の水風船のように腫れ上がっていた。

髪の毛は脂ぎっていて埃まみれで汚い。

3日間何も口にしていないせいか唇も爪もボロボロだ。

こんな姿は見せられない。

急いで三日ぶりの風呂に入って容姿を整える。元々整っている方ではないのだが。

「よしっ!」

自分の持てるポテンシャルを全て生かしきって自分の中の最高の容姿に仕上がった。

今日はあの人と会える最後の日だ。今日が最後。もう会わない。私がそばにいられる権利なんてないのだ。だから最後くらい綺麗な姿で会いたい。

私は制服に着替えて、いつもとは少し違う鞄を持ち、家を出た。

あの人がいない街はなんだかモノクロに見えた。


あの人がそこに居た。

まるで私を待ってくれていたかのように優しい顔で。

「ごめんね、ごめんね、ごめんね。」

言葉が出てこない。沢山言いたかった事があったはずなのに。いざ目の前にすると頭が真っ白になって上手く話せない。

それどころか、涙が溢れて言葉すら出なくなってくる。

その場に泣き崩れて、私は声を上げて泣いてしまった。

そんな私を見て、君は微笑んだ。

大丈夫だよと言っているように私は感じて余計に涙が溢れてくる。

それでもあの人は優しい顔をしていた。



棺桶の中で。



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