黒板が見えない

 見えない。

 黒板が見えない。

 物体の静止エネルギーに何らかの値を加えているのだが、数値が読み取れない。

 黒板が、見えない。


 何とか見ようと目を凝らすのだが、視界が歪むだけで全然クリアにならない。視力のいい人はこんな経験したことないんだろうか。この、焦点を合わせられない感じ。

 もはや焦点が合わないどころではない。例えるなら、冷蔵庫にあるコーラをリビングから手を伸ばして取ろうとするようなもの。どう頑張っても物理的届かない。届く気配すらないから、触れる触れないの感覚がない。


 そうこうしているうちに講義が進んでしまう。話を聞き逃してしまう。板書がどんどん書き足されていく。取り残される。取り残されてしまう。

 そうやって僕は社会から取り残されてしまうのだ。劣等感。憂鬱。仕事ができない、社会貢献できない、何もできない。まるで粗大ゴミだ。そうなれば森友学園の土地の下に埋められてしまうだろう。


 そんなことを考えてる間にも講義は進んでいく。関係ないことを考えてる間も、話は聞いてますよというフリをして先生の顔を見ている。ただし話は耳に入っていない。

 黒板をまた見る。見えない。頑張って涙を出してみるが、視界がさらに歪むだけだ。

 先生がこっちを向いたときだけ、今先生が書いている箇所を見る。講義を聞いてますというフリをするためだ。数十分も前の箇所が見えませんなんて、口が裂けても言えない。恥ずかしい。

 そして先生がパワーポイントに目を向けて話をしているとき、僕はまた例の箇所を見る。見えない。静止エネルギーは見えるが、その先が見えない。


 先生がこちらを向いたので、パワーポイントを見る。話は聞いています!(聞いてない)。先生が板書を再開する。そして僕は静止エネルギーの先を…

 しまった、黒板がいっぱいだ。板書が一周してきたのだ。消される。見えないあそこが、消される…!

 最後に僕は本気を出した。全力を出した。数カ月分もの力を目にこめた。昼にラーメン二郎を食べたから体のエネルギーは万全だった。

 だが、無駄な足掻きだった。


ーーー黒板が見えないーーー



 あの箇所はとても大事な内容だったようだ。定期試験に登場したが、答えられなかった。大事なので配点が高く、それをミスした僕は単位を落としてしまった。


 僕は社会から取り残された。そして、森友学園の土地の下に埋められたのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る