ミクロカノニカルアンサンブル

小栗ジョン

とある村と怪物のお話

「マツコデラックスが来たぞ!!」

 その叫びに触発された村中の人々が、次々と壮絶な悲鳴を上げる。

「うわぁぁぁ!!」

「逃げろぉぉ!!」

「この村ももうおしまいだぁ!!」

 すぐに避難しようと駆けてゆく人たち。しかし高見やぐらの何十倍にもなる超巨体の接近は、あまりにも早すぎた。

「ガオー」

 雄叫びとともに火を吹くマツコデラックス。村は跡形もなく消え去り、逃げ遅れた人たちは無残にも骨となって転がっていた。


「黒木村も落ちました!」

「本当か?!」

 山岡村の村長である白井健三は、召使いの和田アキ子の報告を聞いてひどく驚いた。

「これで残ったのはこの村だけか…」

 突如この世に現れた怪物、マツコデラックス。この国の各地に点在していた村は次々と襲撃されて滅亡した。黒木村が消えたことで、残ったのはこの山岡村だけとなった。

「避難民の受け入れはどうなっている?」

 白井健三は和田アキ子に問う。

「既に黒木村からの避難者で溢れかえっています!このままでは、あの鐘を鳴らすのはあなたではなく避難者になってしまいます!」

「そうか…」

 白井健三は頭を抱える。高い生産性を誇る山岡村の農産業でも、これ以上多くの人は支えきれない。なにより、この村にもマツコデラックスを倒す術は持ち合わせていない。

「どうすれば…」

 この絶望的な状況に、部屋は暗い暗い空気に包まれる。

 しかしそのとき。

「村長!!これでマツコデラックスを倒せます!!」

「何だと!?」

 すごい勢いで入室してきた山中教授がそう言った。手には海老の尻尾が握られている。

「海老の尻尾を液体ヘリウムにつけてからiPS細胞を小さじ一杯分だけ投入し、それをサラダ油で炒めてから32分待つとEXILEのATSUSHIができることが分かりました!」

「それだ!」


 1週間後、山岡村にもマツコデラックスが襲撃してきた。

「ガオー」

 村の関門で待機していた和田アキ子はマツコデラックスに向かって、自慢の怪力を活かしてATSUSHIを投げつける!ATSUSHIはその巨体にぶつかると、その衝撃で大爆発を起こした。

「うわー」

 マツコデラックスはズシンと大きな衝撃を立てて倒れた。

「喰らえ!必殺技シライ!」

 大きく助走をつけて飛び上がった白井健三は、回転しながらマツコデラックスに突撃する!急所に強い攻撃を受けたマツコデラックスは、そのまま息絶えた。


 こうしてこの国の未来は守られたのであった。

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