八百万の夢路~ヤオヨロズドリーム~

拝師ねる

第1話 プロローグ(悪夢)

 また、この夢だ。

 冷たく暗い階段を下りている。自分の周りを闇の膜が覆い、重い湿気がさらにそれを包む。ペタペタとした足音が耳に障る。

 進んでは駄目だ。何度も何度も繰り返した悪夢。抗うことは叶わず、俺はまたそこに降り立った。

 夜、無人、遊園地。

 ぽつんと俺はそこに立ちすくむ。親とはぐれた子どものように、あるいは世界に置き去りにされた少年のように。

 静寂の中、無機質で無遠慮な光が、地面を照らす。星ひとつ見えない夜空を照らす。

 等身大のぬいぐるみたちが、操り人形のような不自然さを携えて、徘徊する。三メートルほどもある動物は極彩色を身に纏い、顔を規則正しく左右に振る。

 そいつらは無表情な笑顔を貼り付けて、俺に群がり始める。俺という器を剥がされ、からっぽになった腹を見つめる。

 これが、心。俺の中には、何も無い。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る