ディストピア飯のササキさん ――機動捜査課のめしライフ―

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プロローグ 古代ライスケーキ(鏡餅)

「こ、これは……」

 地上軍警察 捜査隊 機動捜査課 中尉のササキ・クルス・モリオ。

 それが彼の名前であった。


 彼の目の前には「ライスケーキ」があった。

 

 赤茶けた大地、ところどころ極地戦争の痕跡であるクレーターが存在する第124-AA33234地区のレベル1付近に彼はいた。

 かたわらには警ら活動で使うホバーバイク。


 真空中でも飛行が可能なようにスラスターもついているが、基本は複数の回転翼が生み出す揚力で飛行する。


「丸いタイプのライスケーキか……珍しいな」ササキはつぶやいた。


 戦争の傷跡がひどく、ほぼ無人のこの地区でも時々未発見の地下シェルターが見つかることがある。大抵は砂が入り込んでダメになっているが、今日は運が良かった。


 極地戦争以前の古代の遺物……機械や珍しい保存食などを収集するのも彼の任務のひとつである。現在は失われた技術が使われていることもあるからだ。


 そうしたものをデータベースに登録し、工房などで再現してもらうのである。

 一定のノルマをこなしていけば公務員としての等級もあがるというわけだ。


 ほぼ損傷のない地下シェルターは、家族用なのか小さかった。

 ベッドを四周に配置した小部屋がひとつ。短期的な避難用のものだったのだろう。


 いろいろなものは持ち出されていたので、すでに持ち主は脱出したのであろう。遺体の痕跡などもなかった。


 そんな中、中央にテーブルが置かれており、不思議なライスケーキがおいてあった。

 丸い凸型のライスケーキの上に、もうひとつやや小型のライスケーキが乗っていた。ライスケーキ自体はよくこの地区で発掘されることがあった。たいていは四角い形状で、保存のためか真空パックになっていた。


 ときどき瞬間分子凍結されている個体もあったが、そういったものは極地戦争直前のものだ。目の前にあるライスケーキは瞬間分子凍結して保護フィルムを貼ったタイプのものだ。すなわちまだ食べることができる。


「宗教的な意味合いがあるのだろうか……?」

 極地戦争によって多くの文化や国が失われ、全体的に寒冷となって海岸線が後退して久しい。


 ササキはしばらく考えたのち、そのライスケーキを焼いて食べることにした。

 以前に四角い形状のものは食べたことがあるので食べかたは分かっていた。


 保護フィルムを外すと一気に常温に戻る。


「これはだいぶ堅いな……」

 ナイフで切ろうとしても簡単には切断できなかった。

 四角い個体ではよく見かける切り込みもなかったため、やはり何らかの宗教的遺物なのだろう。


 ようやく切り出すことに成功したササキは携帯コンロを取り出すと、ライスケーキを焼き始めた。

 数分でほどよく温まってくる。


 ライスケーキは以前見つけた「醤油」という謎の古代文字が書かれた調味料がよく合うことは分かっていた。こんなこともあろうかといくつかの古代調味料も持参している。


 焼けたライスケーキに醤油をたらす。

 香ばしい匂いがただよってきた。


 それをさっそくつまんで食べてみる。

「あつ……! いやこれは中身はふわっとしている……!」

 

 香ばしく焼けた外側と、中身の弾性のあるギャップが最高だった。

「さっそくこの奇妙な形状のライスケーキもデータベースに登録しておかないとな……」


 ササキは端末を使った登録作業を終え、今度はいろいろな調味料でライスケーキを食べてみるのだった。




「古代おせち料理」


――材料 (1人分)

鏡餅セット(分子凍結済)


――作り方

1.保護シートをはがす

2.お好みで焼いたりゆでたりする

3.調味料をつけて食べる(メーカーおすすめは醤油)


――コツ・ポイント

正規の分子凍結機が使われていることを確認しましょう

 

 


 

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