第21話 自律型工作機械の鍋

「フルコースねぇ……」


 ササキはいつも通りホバーバイクに乗って警ら活動にいそしんでいた。

 考えていてもフルコースが何かさっぱり浮かんでこない。それならせめていつも通りの任務をやっている間に思いつくのではないかと考えたのだ。


 上司のグレッグ機動警察大佐も冥王星に休暇に向かってしまったので役に立たないだろう。


 ササキは極地戦争以前に作られた高架上の線路上を飛行していた。

 七曜旧海山列鉄道を一気に南下する。

 

 しばらくこのあたりの地区は警らしていなかったのと、いまは使われていない兵器工場を見ておきたかったのだ。


 その兵器工場は極地戦争で使われた兵器のうち、滑空弾や巡航ミサイル、航空機などを生産している巨大軍需企業のもので、調べたところによると各地の首長を招いた盛大な宴会を開催したこともあるという。


 つまりちょっとしたバンケットルームがあるということなのだ。

 提供していた料理の調理場もあるのだろう。


 七曜旧海山列鉄道から天川旧海山鉄道に入る前に右折した。

 このあたりは特に激しい爆撃を受けた後で、重水素弾頭によるクレーターが赤茶けた大地にいくつもうがたれていた。


 高架が途切れた。

 ホバーバイクをゆっくりと降下させる。

 そこには赤茶けた大地が広がっていたが、その中に工場の跡地らしきものが見えた。これが軍需企業跡地なのだろう。


 以前にこの工場の存在をレポートした機動警察官によると生産部門は完全に破壊されているが、営業部門や管理部門が生き残っているという。


 ササキはホバーバイクを止めて工場の敷地に入り込んだ。

 どこかからか水が来ているのか緑地化されている。管理部門と思われる建物はまだ健在だ。窓はなくツタに覆われている光景はどことなく荘厳だった。


 ササキは警備の自動機械などを警戒し9mm拳銃を用意し、いつもの9mm装弾筒付翼安定徹甲弾APFSDSの装填を確認した。

 

 中に入ると薄暗いがほそぼそと光源も生きていて、何らかの補修用の自動機械が動いている気配がした。幸い攻撃してくる様子はなかったので通路をそのまま進んだ。


 受付のホールは広かったがバンケットルームを目指す通路は狭かった。

 メンテナンス機構が生きているらしく床は妙に磨き抜かれたリノリウムのような光沢を放っている。実際、破壊の後が散見されるのに補修はされているようだった。


 目指すバンケットルームへ向かう通路と階段をいくつか経由したところでササキは行き詰ってしまった。


 通路が完全につぶれていて先に進めなくなっているのだ。

 

「ほかに道は……」

 何度か戻ってうろうろとしてみたが、どうも調理部門やバンケットルームに通じる通路はどれも崩壊しているか水没しているようだった。


「それは仕方がないが……腹減ったなぁ」

 一応こういう場合のための警察官用の糧食はあるにはあるが、美味しいものではない。


 何か非常食のようなものでも残っていないか探索してみることにして受付のあるホールへ続く道を戻ることにした。


 その時、何か背後で動く気配がした。

 警備用のUGVかもしれない。


 ササキはとっさに拳銃を構え振り返った。

 何かがまっすぐ近づいてくる。小さい。ササキは銃の引き金を引いた。


 鋭い音とともにその小さなものの背後の壁に大穴があいた。

 そしてそれは活動を停止した。


「……作業用の自動機械だったかな」

 30cm四方ほどの四角い金属の箱の下に10本の脚がついている。

 箱の前面には銃弾が通った小さい穴。そして背後に穴。そのまま貫通した弾頭は衝撃でやわらかな壁に大穴をあけていた。


「弾丸を使ったから報告しないと……」

 ササキはぶつぶつとつぶやきながらその自動機械と思われる箱をのぞきこんだ。


「ん……?」

 その金属の箱の大穴のほうを除くと、予想と違いケイ素か何かの部品に混じって人工の半透明の筋繊維のようなものが見えた。


「これは……」

 以前聞いたことがある。一時期高級な自動機械の動力は人工の有機繊維で作られ、仮に故障しても補修も栄養剤を投入することで自動的に行われたと。そしてその繊維は極めて「カニ」に近いと……


「カニというのが何か分からないが……食べると美味しいという話も聞いたことがある……やってみるか」

 

 ササキは携帯コンロで火をおこし、自動機械の金属の箱をその上に置いた。

 そのままだと焦げる気がしたので飲料水を投入。殺菌をかねてヒガンバナ科ネギ亜科ネギ属の乾燥粉末……乾燥ネギを放り込む。味付けは熱中症を防ぐための塩の錠剤だ。

 

 やがてふつふつと煮立ち、やけに良い香りがただよってきた。半透明だった筋繊維はすっかり白くゆであがっている。


「これは……」

 そのままフォークを突っ込んで白い筋繊維を食べてみる。

 ほろほろと口の中でほぐれ、ふわっと良い香りが漂ってきた。香ばしいような深いような味だ。


「美味い!」


 絶妙な味だった。

 まさか自動機械そのものに水と塩を投入して煮るだけでここまで旨いとは想像以上だった。

「これは……ほかにも自動機械がいたら持って帰りたい」


 後味もよかった。

 ここに酒があればと思ってしまったが、何しろ勤務中だ。

 やむをえない。


 その日、その工場からはさらに10体の自動機械が消えたのだった。



「自律型工作機械の鍋」

――材料 (1人分)

自律型工作機械 S3-X002× 1


――作り方

1.何とかして動きを止める

(補修用栄養剤の吸収を行うタンパク質様の物質をうまくよけると味が大変よくなります)

2.水を入れて外殻ごと火にかける

3.塩を少々、ネギなどを入れると美味しくなります

4.食べる


――コツ・ポイント

似たタイプにS1-X00シリーズがありますが、そちらは掃除用機械のため調理するのが困難です。ご注意ください。







 

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