第140話 ここから逃げるわよ!!
「さて、そろそろ日も暮れるし、外で修行してる容疑者にも牢屋に入ってもらいましょ。ハルナ、伝えてきてくれる?」
ハルナは静かに頷いて、レンを呼びに小屋の外へと出ていく。
ちょうどそのハルナとすれ違いに、ギルド職員が小屋へと入ってくる。
「暫定マスター、王都の冒険者ギルドから通信が入っています。急ぎ取り次いでもらいたいとの事です」
「あら、何かしらね? 今行くわ」
ナタリアはそう言って、ハルナに続き小屋から出ていく。
「さて、俺達も休むとするか。セシルはハルナと早目に帰って休んでくれ。ティアは……俺と一緒に宿でも取るか?」
グレインの発言に、ティアの周囲にいた近衛隊が激昂する。
「貴様! 姫に対して『一緒に宿を』とは何事か!」
「そうだ! 無礼であるぞ!」
「貴様……もしや最初からそれが狙いで!?」
「確かに姫は……いや女王陛下は美しい!」
「「「「美しい!」」」」
「女王陛下は最高!」
「「「「最高!」」」」
「女王陛下はまさに」
「「「「女神!」」」」
「女王陛下は──」
「は、恥ずかしいからやめてくださいっ!」
ティアが顔を真っ赤にして近衛隊を叱りつける。
「はっ、申し訳ありません! 我ら一同、少々取り乱してしまいました」
「グレインさん、その宿には彼らも泊まれる部屋があるのですか?」
「……俺も行ったことがなくてな。ハルナに教えてもらった宿なんだ。……お、噂をすれば」
ちょうど、ハルナがレンを伴って小屋に入ってくる。
「ハルナ、俺はティア達とこないだ教えてもらった宿屋に行くよ。お前も今日は早目にナタリアの家に帰って休んでくれ。……お、噂をすれば」
タイミングよく、小屋にナタリアが飛び込んでくる。
「ナタリア、今日はもう解散して早目に──」
「みんな、ここから逃げるわよ!! 急いで!」
「「「「「は?」」」」」
「王都ギルドの友達がこっそり教えてくれたんだけど……あたし達全員、国家反逆者に認定されたみたいなの! 今、王宮騎士団があたし達を捕縛するためにサランに向かっているそうよ!」
「はぁ? そもそも俺達はそんな罪に問われる覚えがないぞ!?」
「サランギルドでの非協力的な態度と、王都に戻るアドニアス一行に対して、隕石を落として暗殺を目論んだってことみたいよ。……どっかのバカ女のせいね」
ナタリアは溜息をつく。
「反逆者と言われても、国王である私がここにいるのですが……」
ティアが戸惑った様子で呟く。
「ヘルディム王国は、闇ギルドの興した新ヘルディム共和国と和解、領土も再統一。ヘルディム王家は滅亡したとして、アドニアスを国家の中心に据えた新体制で出直すそうよ。宰相アドニアスがヘルディム王国代表として、闇ギルドの総裁と『命懸けで』交渉して和解に持ち込んだってことで、今や彼は国を救ったヒーロー扱いらしいわ」
『ヒーロー』と聞いて、一同は苦々しい顔をする。
そんな中、アウロラだけはどういう顔をしたらいいか分からない感じで戸惑っている。
「闇ギルド総裁であるウチはここにいるんだけど……」
「アーちゃん達を闇ギルド関係者として捕縛したのは『誤認逮捕』という事になったそうよ。ただし、国家反逆罪の疑いで指名手配はされてるから、単に罪状が変わっただけね。でも、あんたもあたしも反逆者なら、冒険者ギルドをクビになっちゃうかも」
苦笑するナタリア。
「ウチらがいなくなって、闇ギルドは今後どうなるんだろ……。ギルドにはウチらにしか扱えないような厄介者だって居たのに」
アウロラは一層不安そうな顔をする。
「アドニアスと交渉した闇ギルド総裁が何者かは知らないけれど、総裁の出した条件で、構成員は王宮騎士団の遊撃暗殺部隊として、アドニアスの直属になるって聞いたわ。もしかしたら……今回サランへ派遣する騎士団員の中にも混ざっているかもね」
「……アドニアスめ。国と闇ギルドのトップが不在の隙に、組織を一気に乗っ取りおったか。或いは、最初からこのつもりであったか……。……いずれにせよ食えん男じゃ。ナタリア殿、檻を開けてくださらぬか?」
ミゴールが疲れた様子で杖を付きながら立ち上がる。
「お嬢様、何をボサッとしておられるのかの? 一緒に逃げますぞ」
「え? どういう──」
「お嬢様は最早闇ギルドと無関係になったのじゃ。もたもたしてると今度は闇ギルドの者達に殺されますぞ? あの男にとって、お嬢様とそこの姫様は目の上のたんこぶじゃ。機会があれば消すつもりじゃろうて」
「なぁ、そのことであんた達に相談があるんだが」
グレインがミゴールに声を掛ける。
「あぁ、大方のことは察しがついておるよ。協力して一緒に国外へ逃亡しよう、という話じゃな?」
ミゴールとグレインは顔を見合わせて笑顔を浮かべる。
「話が早い爺さんで助かるよ。……じゃあ決まりだな。アウロラ、ナタリア、ティアの安全を最優先として、俺達はこれから国外へ亡命する」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます