第098話 のんびり食事でも
王都のソルダム邸、つまりトーラスとリリーの居宅に転移したグレインとサブリナに全員の視線が降り注ぐ。
「グレインさまっ、大丈夫ですか? なかなか来ないので心配しまし……たよ……?」
ハルナは泣きはらして目を真っ赤にしたサブリナを見て動きを止める。
「ハルナ、どうした?」
「サブリナさんの目が……グレインさま、サブリナさんを……泣かせましたね……?」
そう言って、静かにレイピアを抜くハルナ。
「いや?ちょちょ、待てあたたたたたっ!!」
「全然来ないと思ってたらっ! サブリナさんに何をしたんですかぁっ!」
ハルナの刺突がグレインの太腿を次々と刺し貫く。
見れば、ハルナの後ろからナイフを抜いたリリーも近寄ってきている。
「誤解じゃぁっ! ダーリンは、妾を慰めていてくれたのじゃ。 近いうちに敵同士になるやも知れん、妾のことを……」
サブリナの言葉で、一同は水を打ったように静まり返る。
********************
「なるほど……。闇ギルドが魔族伝承の魔法を使っている可能性がある、つまりわたくし達は、今後魔族の生き残りと戦うことになるかも知れない、という事なのですわね」
「そもそも、魔族ってなんで滅んだんだ? そこらの人間よりも強いだろ?」
「分からぬのじゃ……。魔族は野山に混じってモンスター達と共生しておったのじゃが、ある日突然、モンスターが魔族を襲うようになってな……。同胞たちは住処の森を追われ、人族の街へ助力を求めたのじゃ。しかし……」
サブリナは唇を噛み締める。
「人族は、魔族の姿を見るなり『災いの元凶だ』『悪魔が降臨した』『滅ぼさねばならぬ』などと口々に唱え、魔族に襲いかかってきた。人族とモンスターに挟撃されるようにして、無抵抗の魔族達は次々と命を落としていったのじゃ」
「……ひどい……」
ぽつりと呟いたハルナの頬は、既に涙に濡れている。
「人族の襲撃から何とか逃れた妾達であったが、森からやって来たモンスターに襲われ、妾を庇って……両親が目の前でモンスターに襲われて命を落としたのじゃ。妾はまだ幼子であったが、あのときの恐怖は忘れられぬのじゃ……」
小刻みに震えるサブリナの肩を、グレインはそっと抱き寄せる。
「……その後、辛くも逃げのびた妾と同じような魔族の生き残りが数名集まり、ともに行動してモンスターや人族と戦いながら、他に魔族の生き残りがいないかを探しておったのじゃ」
「そして、最終的に魔族の生き残りはサブリナだけになったんだな」
「……そうじゃな……。まぁ、一応リッツがああいう形ではあるが、生きていてくれたから、辛うじて一人ぼっちにはならずに済んだが……。……この際、皆に云うておこうかの。喩え敵として、魔族が現れようと、それが妾であろうと、そなたたちの目的を阻むものであるならば、遠慮なく斬り捨てて欲しいのじゃ」
「断る!」
そう叫んだのはグレインであった。
サブリナは目をまるくして驚いている。
「サブリナを斬る? なんでそんな事しなきゃならないんだ? きっと、お互いに幸せになれる道があるはずだ。……一緒に、ゆっくりでいいから考えていこう」
「ダーリン……」
「そうと決まればサランへ戻って、みんなでのんびり食事でもしよう」
「「「さんせーい!」」」
「じゃあ、サランに転移するね」
そうして自分達が王都に来た目的をすっかり忘れ、サランに戻ったグレイン達は、鬼のような形相のナタリアにこってりと絞られることになるのであった。
********************
「まだ耳が痛いぞ……。ナタリアのやつめ。あそこまで怒ることないのになぁ」
耳を擦るグレイン。
「でも、目的をすっかり忘れていましたわね……」
怒られて悄気てしまったセシル。
「リーナス容疑者を探すって言っても、グレインさましか人相を知らないですよねぇ」
ハルナはうーん、と唸り声を上げて悩んでいる。
「いや、待てよ? リーナスの顔を知ってる奴ならいるじゃないか」
グレインの言葉を聞いて、ハルナがあっ、と声を出す。
「ラミアさんとダラスさんですねっ!」
ハルナの言葉に笑顔で頷くグレイン。
「じゃあ、呼んで来よう」
そう言って、トーラス応接室から出ていく。
「それにしても……アウロラさん、心配ですわね……」
セシルが独り言のように呟く。
「あぁ、そうだな……」
サランに戻った際にナタリアから聞いた話だと、反省会の際に『ギルドマスターを辞める』と言っていたアウロラは、そのままギルドから出て行って戻ってこないのだという。
『ほんとに辞められると忙し過ぎてあたしが死んじゃうわ……』
そうナタリアが愚痴るほど業務が多忙なところに依頼を忘れた『
ナタリアが怒るのも無理はなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます