第074話 事情聴取
「みんな……なんかすまないな。思いがけずパーティメンバーの死体に出会ったもんだから、無意識に戸惑ってしまってたみたいだ」
グレインは一同に頭を下げる。
「大丈夫ですわ。とりあえず……一階からアイシャさんをこちらに運んできた方が良さそうですわね」
「あぁ、それはそうなんだが……リーナスが気になるな」
「どこかに潜んでいる……と?」
「あぁ……。その可能性は大いにありそうだ。それと、俺の知らないこの男は何者なのかってことだな」
グレインは、セフィストの横たわるベッドとは反対側の壁に置かれたベッドの上で死んでいる男を見る。
「それも全部蘇生後に吐かせればいいじゃろ。それに……この付近にはお主達以外に人間族の気配はせん。リーナスとやらが潜んでいることもあるまいて」
「そうか……。じゃあとりあえず、アイシャをここに運んでこよう。サブリナとハルナは一緒に来てくれ」
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グレイン達は三人で階下のアイシャを二階へと運んでいる。
「割と重いな、こいつ……」
グレインは両脇から肩を抱えるように持ち、サブリナが腰を、ハルナが足を持っている。
「この服を脱がせれば、多少は軽くなるんじゃないかの?」
サブリナは名案を思いついた、とでも言わんばかりに得意気な顔で提案する。
「寝間着なんて脱がせても大差ないだろ! それに……死体とはいえ裸を見るのは……」
「そうですね……道徳的にも性癖的にも歪んでいると言わざるを得ないですね……。お姉ちゃんに報告を──」
「いや、ハルナ、俺は違うからな!?」
「あ、そうか! グレインさま、リリーさんに蘇生してもらえれば全て解決──」
「するわけないだろ! そもそも俺は、こいつに興味がない」
そんな会話をしながら、グレイン達は何とかアイシャの身体を二階の寝室まで運び込む。
「あー、疲れた。……ちょっと休ませてくれ」
「あの……グレインさん、今更思いついたのですが……」
アイシャを運び終えて休憩しているグレイン達三人に、セシルが話し掛ける。
「人ひとりを担いで階段で二階に運ぶよりも、二階の階段から二人を落とした方が楽だったような気がしますわ。最終的にリリーちゃんに蘇生してもらうのでしたら、死体が損壊してもそこまで影響はないかと」
「「「最初に言って」」」
「とりあえず三人揃ったから良しとするか……。明かりをつけてくれ」
「はいっ!」
ハルナは部屋のランプに次々と火を灯す。
ランタンも置いてあるため、二階の寝室は人の顔がはっきりと認識できるまでに明るくなる。
壁を背にして、長座させるように後ろ手に縛った三人の死体を並べる。
「誰からいこうかな……リリー、とりあえずアイシャからお願いできるか?」
「分かりました」
そう言って、リリーはアイシャの死体の前に立つ。
グレインはリリーの負担を少しでも減らすために、強化能力を発動する。
「『
施術が終わると、リリーは軽く足元がふらついたため、慌ててセシルがその身体を支える。
「うぅ……こ……ここは?」
うっすらと目を開けるアイシャ。
「……ヒッ!」
自分が、隣にあるセフィストの死体に寄りかかっている事に気が付き、声にならない声を上げるアイシャ。
それと同時に、正面に立っている男の顔を見る。
「き、キミは! グレイン! 何で、何でここに! ……まさか彼らもキミが……?」
「だとしたら……どうする? 俺達と戦うか?」
グレインは静かに、目の前の寝間着姿の女騎士を見下ろしている。
「っ、あの時は……済まなかった! グレイン、キミが生きていてくれて本当に嬉しいよ! あれはリーナスの提案で、私は反対したんだ」
アイシャは精一杯の笑顔でグレインを見ているが、彼の顔は冷たく凍りついていた。
「……そんな事はどうでもいいな。……アイシャ、お前に聞きたいことは三つある。さらわれた子どもたちと、リーナスの行方、それに、この知らない男の正体だな。もし嘘をついたら……隣のセフィストのようになるぞ」
アイシャは再びヒッ、と小さな悲鳴を漏らすが、それがほとんど声にならないほど彼女の全身は萎縮しきっていた。
「子どもたちは、王都の……闇ギルド関係の施設にいる筈だ。その男は闇ギルドの関係者で、誘拐した子どもの運搬役だったんだ。リーナスは、王都の施設側に居るんだよ」
「じゃあ、二つだけ質問を追加だ。子どもを拐う理由と、お前達が何でそんな事をやっているんだ?」
「子どもは洗脳して闇ギルドの戦力にするため……らしい。私達は……闇ギルドから殺すと脅されて……やらされているんだ」
「そうか、分かった」
グレインは頷く。
「分かってくれたか! グレイン、私は前からキミのことがずっと好きだったんだ。助けてくれたらキミに尽くすよ、何でもする!」
アイシャは死にたくない一心で、精一杯グレインに媚びているのは明らかだった。
グレインはリリーと目を見合わせて、非情にも思える命令をする。
「リリー、アイシャを殺してくれ」
その言葉に、アイシャは涙を流し、後ろ手に縛られたまま身体を波打たせ、発狂せんばかりに騒ぎ立てる。
「なんでっ! なんでぇぇっ! 私に魅力がないから? 何でもする! 本当にキミの、いやグレイン様のために何でもするからァァァァ!」
その言葉に、グレインはアイシャの方を見て言う。
「お前が俺の事を厄介者にしか思っていなかった事は知ってるぞ? 『送別会』の時にそう言って散々殴ってくれたじゃないか。俺のために何でもするって? ……じゃあ『死んでくれ』」
直後、ナイフを抜いたリリーがグレインの前に現れる。
「いやぁァァ! いゃ──ゴブフォッ……ぁ……ッ! ……ぐぶ……」
リリーのナイフがアイシャの胸の中央に深々と突き立てられ、暫くしてアイシャはその動きを止める。
「次はセフィストから話を聞こう。……ごめんな、リリー。この一件が終わったら、リリーのために何でもするよ」
グレインはリリーに頭を下げるが、リリーは首を左右に振る。
「私も……この女が……不快だったから。それに……グレインさん、……アイシャと同じ事言ってる……よ」
そう言いながら、リリーはセフィストの前に立つ。
「『蘇生治癒』!」
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