第034話 罠かチャンスか
南門から王都に入った一行は、大通りの喧騒の中を歩いている。
夕暮れ時の薄暗い街並みで、周囲の者がトーラスとリリー、それに連れられているポップに注目する中、彼らに続いて歩いているのは、キョロキョロと周囲を見回している田舎者三人であった。
「ここが王都なんですねっ! 私初めて来ました!」
「わたくしもですわ。なんだかとても騒がしくて、でも活気に溢れた街なのですね」
「俺は前に来たことがあるから、なんか懐かしいというか久しぶりというか……」
ふとグレインは前方に目を向けると、トーラスに並び、相変わらずポップを撫でながら、とことこ歩く少女の姿がある。
「リリー、さっきハルナの治癒剣術と似たような術を知ってるって言ってたけど、それってどんな術なんだ?」
「……ごめんなさい……。あまり……言いたくないの」
「そうか……。いや、こっちこそ変な事を聞いて済まなかった。……そういえばハルナ、王都なら魔法剣用の剣がありそうな気がするんだが、明日にでも見に行ってみないか?」
「で、でも、あれってものすごくお高いんですよ? 最低でも百万ルピアぐらいは」
「あー……王都のサンドイッチ露店巡りに計画を変更しよう」
「それは良いですねっ!」
そんな二人のやり取りを聞いて溜息をつくセシル。
「この調子ではいつまで経っても、剣を使った治癒剣術は見られそうにないですわね……」
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「着いた。ここが一応、僕たちの家だよ」
そこは、何処まで続いているのか分からないほど長い塀に囲まれた巨大な屋敷であった。
「えっ……と、ここが……トーラスの家なのか?」
「そうだよ。まぁ、父が大きな商会をやっていたからね。僕がそこの長男だから、この家に住まわせてもらってるんだ」
グレインは、トーラスの言葉にいくつか不自然な点を見出すも、最も気になった部分を質問する。
「その商会の名前を教えてくれないか?」
セシルとハルナは、はっとした表情でグレインとトーラスを見る。
「さすがに家がこれだけ大きかったら分かっちゃうかもね。王都ではそれなりに有名なソルダム商会です。僕がソルダム家五代目当主……になる筈のトーラス・ソルダムです」
「(おい、これってまずくないか?)」
三人は円陣を組むようにしゃがみ込んで小声で相談を始める。
「(もしやトーラスさんは私達の正体を知って……? グレインさま、これは罠かもしれませんよっ!)」
「(いえ、これはチャンスかも知れませんわよ? 客人として堂々とソルダム邸に侵入出来るのですから)」
「(これは罠なのか、チャンスなのか分からないな……。どう動くのが正解なんだろう……。うーん……)」
「(そうですね……。そもそもソルダム商会って何の商品を扱っているのかとか、商会の規模すら分からないですからね)」
「「(うーん……)」」
唸ったまま動きを止めるグレインとハルナを見て、セシルが溜息を吐きながら立ち上がり、トーラスに笑顔を向ける。
「すみません、あまりに大きな邸宅でしたので皆戸惑っていまして。それに……わたくし達は南端の僻地から出張してきた田舎者ですので、ソルダム商会について聞いたことがなく、そのような状態でお屋敷にまでお招きいただくのは、失礼にあたらないか心配して相談しておりましたの」
「あはは、さすがのソルダム商会も、知れ渡っているのは王都までなのかな」
清々しさすら感じる笑顔を見せるトーラスに、三人は安堵する。
「そんな事は考えなくていいですよ。気になさらないで、どうぞ」
トーラスは屋敷の門へと歩く。
「これはトーラス様。お帰りなさいませ。」
屋敷の門に立っている門番が、トーラスを見つけるなり深々と礼をする。
「今日は客人を招いたけど、良いよね?」
「……先ほど、ラミアお嬢様がいらっしゃいました」
門番のその言葉を聞いて、一同が凍り付く。
「まぁ、客人ぐらい許してくれるだろうさ」
「いえ、その心配は無用です。お嬢様はもう旅立たれました。なんでも、たまたま王都の近くを通ったので、ついでに今回の冒険で使うかも知れない魔道具を取りに来たという事でした。急いでおられた様子でしたよ」
「トーラス、ちょっと折り入って話があるんだが」
「……何だい? あ、ここじゃ色々とまずいから、まずは家の中で話そうか。デリーズ、門を開けてくれ」
デリーズと呼ばれた門番は、すぐに門へと取り付き、重々しい門扉が動いていく。
「さぁ、遠慮しないで入って入って」
トーラスに続き、グレイン達が屋敷の入り口をくぐると、おびただしい数の使用人が整列していた。
「「「「トーラス様、お帰りなさいませ!」」」」
「ただいま、そしていつもありがとう。……さっきラミアが来たんだよね? 彼女はどこに立ち寄ったか教えてくれるかい?」
「ラミア様は自室にしか立ち寄っていませんでした」
「そうか……ありがとう。今日は罠を仕掛ける余裕がないほど焦っていたみたいだね」
「罠だって?」
「あぁ。あの女は、家に立ち寄るたびに攻撃魔法の罠を仕掛けていくんだ。もちろん、全部僕の命を狙ってね」
「なんだってそんな事になってるんだ? そもそもあいつの攻撃魔法がここで炸裂したら、被害はトーラスだけにはとどまらないだろう!?」
「あぁ……、当然そうなるよ。君の想像通りだ。……話の続きは、応接室でお茶でも飲みながらにしようか。僕も少し疲れたみたいだ。喉が渇いたよ」
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