第2話
「それじゃ成瀬ちゃん、残りの書類は僕がやっておくからそっちお願いね」
生徒会室のパソコン前で、眼鏡を掛けた癖毛の青年は顔を上げると悪戯っぽく笑った。無邪気な瞳を飾った黒フレームのそれに、私は思わず「あれ?」と眉を寄せる。
「魁斗君、視力悪かったっけ?この間架音が『両目A』って言ってた気がするんだけど…」
「ああ…これね、実はブルーライトカットなんだ。実は先週文芸部の子に会ってね、彼女がブルーライトカットの眼鏡掛けてたから」
「…まさかとは思うけど、それって
「そ。この間弓道部の取材に来てて、架音伝いに知り合ったんだ。成瀬ちゃんも彼女と同じ中学校だもんね」
手元のキーボードに視線を戻しながら、魁斗君は小さく笑みを零す。
「…そういえばさ」
「ん?」
「成瀬ちゃん、確か雅音と幼馴染なんだよね」
「え…うん、そうだよ。…ねえ魁斗君、生徒会に雅音の事誘わないの?やっぱり人手足りないし、そうすれば魁斗君も雅音と長く居られるでしょ?」
「そうしたいのは山々なんだけどね…。雅音も剣道部の仕事で手一杯らしくて。それに、ウチの生徒会は恋愛禁止だし、それで別れる事になったら本末転倒でしょ?」
「…そっか」
…ここ、桜楼学園の生徒会には『会内恋愛禁止』という鉄の掟がある。この決まりは何代にも渡って厳守されているらしく、過去に破った先輩達は破局を強制された挙句、生徒会を追放されたらしい。
「会内恋愛禁止っていうのは雅音にも理解して貰ってるし、クラスも部活も委員会も違う分、他の時間はなるべく一緒に過ごすようにしてるから。…本当なら、生徒会長の僕が掟を帳消しにしないといけないんだろうけど…先生から何回も『駄目だ』って言われてさ」
不甲斐ない彼氏で情けないよね、と魁斗君は苦々しく笑う。…ねえ魁斗君、気付いてる?雅音都付き合ってから…ううん、雅音の事を話してる時の魁斗君、とっても優しい目をしてるんだよ。
「…そんな事無いよ。凄いね、恋人の為にそこまで行動を起こせる人…魁斗君以外に見た事無いよ?」
「そうかな?…有難うね、成瀬ちゃん」
小さく零された柔らかな微笑と、黒いフレームの奥でくしゃりと綻ぶ端正な顔。…何気ないはずのその微笑みにすら、空っぽの心はきゅうと締め付けられて。
「…ッ」
…分かってる。私達は生徒会役員の三年で、それ以上もそれ以下も無いって。それに…目の前の彼は、私の幼馴染と付き合ってるって。
(…分かってる、分かってるよ。…でも…)
ごめんなさい、雅音。私…魁斗君の事が、好きです。
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