移り気
三上クコ
6月3日
「また明日」
「あぁ明日」
蓮と別れ、大通りから川沿いの小道に入る。途端に車のエンジン音が一気に遠ざかった。大通りと小道の間になにか壁があるのかと思うほど、この道はいつも静かで人通りが少ない。今日も僕以外の人はいない、そう思ったのだが珍しいことに人がいた。その人、おそらく僕と同い年ぐらいの女性は、初夏の空のような爽やかな青色の紫陽花を嬉しそうに眺めている。あんな嬉しそうな顔をするなんて、よっぽど花が好きなんだな。なんとなしに彼女を見ていると、ふいに顔をあげた彼女と目が合った。
かちり。
時が止まる。頭の中で歯車が動き始める音がした。不自然に動きを止めた僕に、彼女は恥ずかしそうに笑って会釈をするとその場を立ち去った。
僕は、彼女と会うために生まれてきたのだ。
遠ざかる足音を聞きながら、僕はそんな陳腐なドラマの台詞を思い出していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます