移り気

三上クコ

6月3日


「また明日」

「あぁ明日」


 蓮と別れ、大通りから川沿いの小道に入る。途端に車のエンジン音が一気に遠ざかった。大通りと小道の間になにか壁があるのかと思うほど、この道はいつも静かで人通りが少ない。今日も僕以外の人はいない、そう思ったのだが珍しいことに人がいた。その人、おそらく僕と同い年ぐらいの女性は、初夏の空のような爽やかな青色の紫陽花を嬉しそうに眺めている。あんな嬉しそうな顔をするなんて、よっぽど花が好きなんだな。なんとなしに彼女を見ていると、ふいに顔をあげた彼女と目が合った。


 かちり。


 時が止まる。頭の中で歯車が動き始める音がした。不自然に動きを止めた僕に、彼女は恥ずかしそうに笑って会釈をするとその場を立ち去った。


 僕は、彼女と会うために生まれてきたのだ。


 遠ざかる足音を聞きながら、僕はそんな陳腐なドラマの台詞を思い出していた。

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