第四章 はじめての友達

第27話 視線

ここは王都の中央、フィア女王が住まう城。

その城の東棟の図書室の一角。


日当たりの悪い机でアリシヤは紙とにらめっこする。

報告書と書かれた紙。

エルバの村で起こったことを上へ報告しなければならないのだ。


リベルタとタリスは会議に出ており、今はアリシヤ一人だ。


報告書など初めて書くものだから言葉回しや書き方何から何まで慣れない。

大方はタリスから教わったためあとは書くだけなのだ。


だが、それが難しい。


アリシヤが眉間にしわを寄せていると、人の足音がする。

珍しい。

図書室のこのあたりは古ぼけた本が多く、利用者も少ない。

足音が止まり、二人の男の話し声が聞こえてくる。


「今日もお高く留まってやがる」

「何も出来ないただのお飾りのくせにな」


男たちの声は大きい。

静寂が好まれる図書室であるのだが、ところはばからずといったところか。


「聞いたか?この前、あのアウトリタ様に口答えしたんだと」

「これだから世間知らずのお嬢様は…自分の地位は親のモノだとも知らずに」


棚の隙間からちらりと見えた男二人。

この城の制服を着ている。

制服の色は白。と言うことは、事務方の役人だ。


「どうしてそんな小娘が事務長候補なんだろうなあ」


男はあたりに聞かせるようにそう言った。

そこでアリシヤは気づく。


確か現在の事務長はロセの父親。

ということは、記録師候補、それにあたるのはロセ、それから、ロセの兄・カルパだ。


ロセはこの図書室の受付に座って仕事をしている。

この声の大きさならロセにも聞こえるだろう。

この男たちは、ロセの前で堂々とロセの悪口を言っているのだ。


肝の据わった男達だ。


アリシヤはある意味感心する。

その後も、男たちはロセの悪口を並べていく。


別にロセのことをかばうつもりはない。

むしろ関わりあいたくない。

ロセはアリシヤのことを初対面で悪魔と言った。

その後も、図書室に入るときは挨拶をしているがロセから言葉が返ってきたことはない。


そういう人間とは無理をして付き合う必要はない。

アリシヤはそう思っている。


だが、このまま人の悪口を聞いているのはいささか性に合わない。


アリシヤは椅子から立ち上がり二人の男達がいる本棚の方へ向かった。

男たちの前に立つと彼らはぎょっとした。

赤い見た目だからだろう。


「すいません、そこの本を取りたいのですが」


アリシヤがそういうと、男たちはそそくさとどこかへ行ってしまった。


これでよし。


アリシヤが席に戻ろうとした時、カウンターから視線を感じ、目を上げる。

ロセと目があった。

いつも通りの無表情であったが、妙にアリシヤの方を凝視している。


気のせいだと思うことにし、アリシヤは席に戻った。

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