第25話 結果と反省

それから村人と山賊とアリシヤの奇妙な時があった。

彼ら四人は村人と最後の会話を交わしている。

リベルタたちが来たら彼らは法に裁かれるために王都へ運ばれるはずだ。


警戒しつつもその光景を見守っていたアリシヤに声がかかる。

ペルラがアリシヤを見上げる。


「…あなたは誰か大切な人を失ったの?」

「ええ。親のような姉のような…大切な家族を」

「そう」


ペルラは俯く。そして小さな声で言った。


「ごめんなさい」


アリシヤは首を横に振った。

ふと顔を上げると、マットと目が合った。

軽く会釈しマットの横に腰を下ろす。


「あの、お尋ねしてもよいですか?」

「なんだ?」

「あなたたちは十数人の規模だと聞きました。どうして四人で来たのですか?後の人たちは?」

「ああ、あとの連中は勇者にやられたんだ」

「へ!?」


アリシヤの驚きにマットは苦笑する。


「勇者とあの連れとピノが急に乗り込んできた。だから俺たちは村に逃げた」


なるほど。ピノの話から山賊たちのアジトを突き止めたのか。

それを二人で乗り込んで優勢に持っていくくらいにあの人たちはできる。


「それで、村人を人質に取って勇者様を説得しようと?」

「ああ。でもあんたにやられたけどな」


マットはそう言って笑った。

吹っ切れたような笑いだった。


「アリシヤさん」

「はーい」


ナーヴェに呼ばれてアリシヤはマットに軽く会釈しそちらに向かう。


「あいつと出会わなければ、そこから逃げ延びるつもりだったんだがな」


マットがぼそりと呟いた言葉はアリシヤの耳には届かなかった。


***


「アリシヤさん、お疲れ!」


一時間後ほどして、リベルタがエルバの村に姿を現した。

もちろんピノも一緒だ。


山賊たちは手に縄をかけられアジトからぞろぞろと連れてこられたらしい。

村に逃げ延びたマット達四人もその列に加えられる。


教会の前の広場で彼らを見張りながら増援を待つ。

一応のため、村人たちには各家に帰ってもらった。


「タリスさんは?」

「ああ、アイツは増援呼びに王都に帰した。それにしても…」


リベルタが村を見渡す。


「村に被害出さず、けが人もいない。よく守り切ったな」

「いえ、私は何も」

「いや、すごいぞ。そういう時は褒められとけ」


そういってリベルタはアリシヤの頭をわしゃわしゃと撫でる。

ちょっと、いや、かなり嬉しい。


だが、アリシヤは俯く。


「ですが、私がピノさんを村から出したのは悪手でした。あんな嘘、誰だって見破れます」

「タリスは見破れてなかったぞ」

「え…?」

「タリスは見破れてなかった」


真顔で告げられる真実にアリシヤは困惑する。


「タリスさんよっぽど騙されやすいんじゃ!?」

「そうだよ。あいつはダメだ。気をつけてやってくれ」

「えええ」


まさかこんなところでタリスの弱点を知ってしまうとは。

確かに嘘はつけない性格だと言っていた。

なるほど、嘘にも弱いのか。心配になる。


「あいつはな、信じた人間の嘘に弱い」

「へ?」

「アリシヤさん。タリスに信用されてるんだよ」


返答に困る。

なんだか嬉しいような困ったような。


「タリスさんは、お人よしですね」

「そう、その通り」


リベルタと顔を合わせ笑う。

そして、息を吸いアリシヤは切り出す。

罪人としてとらえられた彼らには聞こえないように小さな声で。


「あの、彼らの処遇なのですが—」

「ん?ああ」

「彼らは村の人から食べ物を取っていただけです。深いけがを負わせたりはしていません、だから」

「何を心配してるんだ?」


リベルタが首をかしげる。

アリシヤは「へ?」と間の抜けた声を出す。


「彼らは軽い罪を犯した。確かにそれは裁かれる。だが、魔王軍に関わった重要な参考人だ。魔王のことを知るために手厚くもてなされるだろうよ」

「だったら」

「心配してるほど、重い罪状にはならないんじゃないかな」


アリシヤは胸をなでおろす。

リベルタが人差し指を口の前にする。


「けど、これは秘密な。俺たちが決めることじゃないから」

「はい!」


アリシヤは元気よく返事をした。

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