第23話 フードの男

アリシヤは立ち上がり、剣を携えた。


一人でなんとかできるとは思ってはいない。

村の外に行ったリベルタ、タリスは今頃ピノからこの村が山賊に支配されていることを訊いているはずだ。となれば、今から増援を呼んでくれるであろう。

なら、かかる時間はざっと三時間。

それまで、どう間を持たせるか。


山賊たちの動きも気になる。

なぜマットと呼ばれたあの男がピノを外に出したのかが、分からない。

ピノを外に出した時点で村の実情が、勇者であるリベルタに筒抜けになるのは分かっていたはずだ。


彼らは今の生活を手放したくないはず。

だったら勇者を追い出す手段として取る手段とすれば-


「お爺様」


厚い扉の向こうから暗い声が聞こえる。

ナーヴェが扉の前に立つ。だが開こうとはしない。


「どうした、ペルラ」

「彼らが村人を人質に取りました」


アリシヤの血の気が引く。

思った通りだ。自分の軽率な言動が招いた結果だ。

冷静になれ。

アリシヤは己に言い聞かせる。今できることはなんだ。


「わかった」


ナーヴェはそういうと、アリシヤを手招く。そして耳元で告げる。


「彼らは十数人いる。だが、実戦慣れしていない。人質を頼む」


アリシヤが頷くと、ナーヴェは玄関の間反対の位置を指さした。

裏口だ。アリシヤは音をたてないようにそっとその扉から滑り出した。


***


「村人を人質に取った。ペルラに伝令に行かせた。これでいいのか?」


マットの問いに、フードの男は答える。


「ああ、それでいい」

「…なあ、あんた何でこんなことを?」


男は答えない。

だが、目が語っている。これ以上の追及はするな、と。


マットは大人しく引く。

男の剣の腕は本物だろう。

自分のような実践もしたことのない山賊もどきが勝てる相手ではない。


だが、マットは男を強くにらむ。


「約束は守れよ」

「ああ、村は焼かない」


男の表情はフードに隠れてよく見えない。

薄ら寒いものを覚えて、マットは男に背を向け人質の方へ向かった。

背にはじっとりと汗がにじんでいた。


残った男が小さく口を開く。


「何で?…そうだな。一人の平凡な少女を英雄に仕立て上げるため」


マットの問いに一人答えた男は、歪んだ笑みを浮かべていた。

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