心身
スミンズ
心身
シンと静まった部屋の中で、僕らはただ二人だった。初めて入った彼女の部屋は、ただ可愛いだけなのに何故だか刺激的で、妙に居心地が良くない。だが、居心地が悪いわけではない。そんな、不思議な感覚だ。
彼女は部屋着だった。ショートパンツから覗いた脚は今まで見た異性の肌の中で一番露出のあるものであったし、半袖のシャツから覗いた腕、胸元はやけに魅惑的に感じた。しかし、そうだからといって、そこに触れることはできない。そう言う関係ではない。僕はそう丸め込んだ。
「なにか、面白い話ないかな?」彼女がいう。
「面白い話か。そう言えば、この前近所の八百屋で買った桃の中から、小さな虫が出てきたんだ。それを食べかけたお母さんが大乱舞してさ、大変だったよ」
「へえ」彼女はとても面白くは思ってないような返答をする。そして、チョコレートを一欠片、口に放り込んだ。それは幸せそうな顔をする。
「僕らって、どういう関係なのかな?」ふと、チョコレートに負けた悔しさから訊いてみた。
「関係?そりゃあさ、私が家に招待する位の男の子だから。君が私を恋人だというなら、私達はカップルなんだよ」
「カップルって、そんな漠然としたものなのかな?」
「カップルなんて、漠然としたものだよ。私達には好き、嫌いという感情があるけど、カップルになる条件には必ず『好き』と『好き』が掛け合わさっている必要はないんだから。いってしまえば『彼の心が好き』と『彼女の身体が好き』という、好きなポイントがずれてる場合でもカップルになるし『嫌いだけど金持ち』と『好きだけどヒモ』が掛け合わさってもカップルにはなる」
「そんなことをいわれてもなあ。じゃあ僕らはカップルでいいのかな?」
「そうだよ。私が君をどう思ってようが、私は君がカップルだと言えばカップルでいいから」
「酷いよ、それは」僕は思わず呻く。
「それじゃあ、君がカップルの必要条件だと思うものはなに?」
「それは……。信頼しあえるパートナーであって、平等な関係。それがカップルだとおもう」
「平等な関係……か」彼女はふと息を吸い込むと、いきなりベットに入って横になった。
「例えば、夜。君がうちに泊まるってなったらさ。私はいつも通りベットで寝るっていうことにして、私が君に『どこで寝るの?』って訊ねるとする。君はどう答えるの?」
「それは……。『予備の敷き布団はありますか?』って尋ねるとおもう」
「うん。でもそれじゃまるで平等じゃないんじゃない?」
「それは…」
「私は思う。『好き嫌いの組合わさった』カップルと『好き同士が掛け合わさった』カップルの違いは、心身ともに『ゆるしあえる』か『あえないか』だって。私は、そんな状況の中で人によってはきっと予備の布団のありかを教えるだろうし、人によっては一緒のベットで寝てほしいと言うのかも知れない。だけど、一緒のベットで寝てほしいと思えるような人はなかなかいないよ。それこそ心身ともに許せてないとね」
「……そうか、じゃあ僕はどうなんだろう?」ふと、訊ねてみると、彼女は少し目を細めて笑う。
「心身ともに許せない異性の人を、部屋に呼ぶと思う?だからさ、私達がどういう関係かっていう答えは、君のなかにあるんだよ?」
「……なんだよそれ。さっきの問題、全部ひっくり返ってるじゃないか!」僕はそうツッコミを入れると、彼女は「ああ、ホントだ!」といって大笑いした。僕もつられて笑う。
ああ、もう答えは見つかったよ。
心身 スミンズ @sakou
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