鏡怪談 肆:鏡隠しノ話
等星シリス
一 祭リノ記憶
「――そういや
「
「あー……あの辺か。森で迷わないように気をつけろよ?」
「もう
「へいへい、悪かった悪かった」
頬を膨らませながら席を立つ時点でまだまだお子様だろ、とは言わないでおくか。
女を怒らせると面倒なのは大人でも子どもでも同じだ。
「……ま、鷲子の方は心配するだけ野暮か」
寧ろ心配すべきなのは――
「
「……そんなに変な顔してた?」
「とてもじゃねぇが人様には見せられねぇ顔してたぞ、鷲子は気づいてなかったみてぇだけどな」
「…………そんなに酷かったんだ」
指摘を受けて落ち込めるだけまだマシ、と言うべきか悩ましいところだ。
もうちょっと成長なり変化なりしてもらわないことには苦言を呈する以外の対応が出来そうにない。
「ったく、お前ももう高校生なんだからいい加減姉離れしろって」
「別にそういうのじゃないよ、ただ姉さんがいなくなりそうで不安ってだけで……」
「……いなくなりかけたのはお前の方だろうが」
「えっ?」
まずい、口が滑った。
「由鶴兄さん、今何か言った?」
「……何も言ってねぇよ、ところで――」
鷹也には話せない。
あれは、あの時のことは、まだ――
「ゆづるおにいちゃん、わたがしたべたい!」
「わたしりんごあめがいい!」
「あーあー分かった分かった、小遣いやるから二人で買って来い。俺はここで待ってっから」
「はーい!」
「っはぁー……ったく、子守りって楽じゃねぇんだな……」
あれは鷲子が小学校に上がる前、伯父さん――鷲子と鷹也の親父さんに頼まれて二人を
無邪気で疲れ知らずな子ども二人に振り回されて疲れたから欲しいものを買いに行かせて一休みしようとしたその矢先。
「ゆづるお兄ちゃん!」
「どうした鷲子、そんなに慌てて。小遣いが足りなかったのか?」
「たかやが、たかやがいなくなっちゃった……はぐれないようにちゃんと手をつないでたのに……」
「なっ……どこまで一緒だったか覚えてるか?」
「えっと……お店の前に行くまではいっしょだった……とおもう……」
「ならそう遠くには行ってねぇはずだな……鷲子、俺の傍を離れんなよ」
「うん!」
鷹也の性格を鑑みるに自分から鷲子の傍を離れることはあり得ない。
となると考えられるのは――
「ゆづるお兄ちゃん、あれ!」
そう叫ぶと同時に鷲子が指差した先には見慣れない女に手を引かれる鷹也の後ろ姿があった。
「鷹也!」
「たかや!」
二人で名前を呼んでも返事どころか振り向きもしない。
距離があるから聞こえていないのだろうか。
「待ちやが、れっ!」
直ぐ様追いかけて無理矢理女から引き剥がすと鷹也は目をぱちくりさせる。
「……ゆづるおにいちゃん?」
「ったく、手間かけさせやがって……」
「たかや!」
「おねえちゃんも、どうしたの?」
この反応を見るに自分が何をしていたのか全く覚えていないというか、理解していないようだ。
となれば詰問すべきなのは鷹也を連れ去ろうとした女の方だろう。
「おいおま……っ」
話し掛けようと顔を上げた時にはもう女の姿はなく、辺りを見回してもそれらしき人影すら見当たらない。
「あいつ、どこに行きやがった……?」
「ゆづるおにいちゃん、だれかさがしてるの?」
「お前を連れて行こうとした奴……つっても分かんねぇか」
いっそ分からないままでいた方がこいつのためになるかもしれない。
もし間に合わなかったら――
「……そろそろ帰るぞ。二人とも、家に着くまで絶対に俺の傍を離れるなよ」
「だったらわたし、ゆづるお兄ちゃんの手しっかりにぎってるね!」
「ぼ、ぼくも!」
「あー……そうだな、悪くねぇけどあんまり引っ張るなよ?」
とりあえず今は鷲子と鷹也を無事に帰らせることが最優先だ。
見栄えの悪さや動きにくさはやむを得ないものと甘受しよう。
「――そうか、鷹也が……」
夏祭りから帰ってきた直後、俺は鷹也の身に起きたこと伯父さんにを話した。
大事に至らなかったとはいえ、鷹也が危険な目に遭いかけたのは俺が目を離したせいだとこっぴどく怒られる――かと思いきや。
「お前にはそろそろ話しても良いだろう」
そう呟いて伯父さんが切り出したのは夜深月の血筋に纏わる重大な秘密だった。
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