第49話・君が居てくれれば
「んん……」
俺は身体を包む心地良い暖かさで目を覚まし、そのまま視線だけを泳がせた。
――俺の部屋?
見慣れた狭い部屋の天井を見た俺は、なぜ自分がこうして寝ているのか理解できなかった。だって俺は、シエラちゃんと初めて出会ったベンチに座っていたはずだから。
「あっ、先生、目が覚めた? 大丈夫?」
「えっ!?」
その声を聞いた瞬間、俺は公園のベンチに座っていた時の事を思い出して上半身を起こした。
「急に動かない方がいいよ? さっきまで体が凄く冷たかったし」
「シエラちゃん!」
「どうしたの? 大きな声を出して」
「本当にシエラちゃんだよね?」
「うん、あっ……」
ベッドから下りた俺は、すぐに目の前に居るシエラちゃんを抱き締めた。すると抱き締めた両手と体にシエラちゃんの温もりが伝わり、これが夢でも幻でも妄想でもない事を証明してくれた。
「良かった、もう戻って来ないかと思ったよ……」
「先生を心配させた?」
「心配したよ、シエラちゃんが居なくなって何も手に付かなくなったくらいに……」
「そうだったんだ、心配させてごんめんね、先生」
「いや、シエラちゃんが戻って来てくれただけで嬉しいよ……ところで、魔界には何をしに戻ってたの?」
「テストを受ける為に戻ってたの」
「テスト? テストって何のテスト?」
「人間心理学のテスト。私はこれが凄く苦手だったから、お父様に人間界で勉強する様に言われてこっちに来てたの」
――そういえばシエラちゃん、知り合った時から勉強をする為に来たって言ってたもんな。
「それでテストの結果はどうだったの?」
「結果はまあまあ良かったけど、お父様はその結果に納得してくれなかった」
「そうだったんだ……それでもう一度こっちで勉強をして来いって感じになったの?」
「ううん、人間界で勉強してもお父様が思っていた成果が出てなかったから、もう人間界に戻らなくていいって言われたの。だから私が人間界に戻ってまた勉強をしたいって言ったら、お父様は駄目だって言って私を部屋に閉じ込めたの。だからシルフィーに協力してもらってこっちに戻って来たの」
「そ、それって家出って言うんじゃないの? てか、よくシルフィーナさんが協力してくれたね」
「
「のわっ!? い、いつの間に部屋に来てたんですか?」
「早乙女様がシエラ様を抱き締めた辺りからです」
「は、恥ずかしいところを見せちゃいましたね。でも、シルフィーナさんの雇い主ってシエラちゃんのお父さんですよね? 大丈夫なんですか?」
「私はメイドを解雇されてもシエラ様のお世話を続けるつもりですから、何の心配もございません。それにもしもシエラ様のお世話の邪魔をするならば、それが誰であろうと容赦なく排除いたします。それが例え旦那様であったとしても」
「そ、そうなんですか? それは頼もしいですね……」
「はい。それにシエラ様は早乙女様に会いたいと毎日の様に仰っていましたので、こうして望みを叶える事ができ、私は満足しております」
「そうなの? シエラちゃん」
「うん、本当」
「そ、そっか、凄く嬉しいよ、シエラちゃん」
「うん、シルフィーが居なかったらきっと、こっちに戻る事はできなかった。本当にありがとう、シルフィー」
そう言うとシエラちゃんはシルフィーナさんへ近付き、綺麗な両手を握った。
「シエラ様……私はどんな時でもシエラ様の味方でございます」
「うん、ありがとう」
「勿体なきお言葉」
「でもシエラちゃん、本当に大丈夫なのかい?」
「私は先生と離れて凄く寂しかった、先生は寂しくなかったの?」
「寂しかったさ、シエラちゃんが居なくなってしばらくしてからずっと、シエラちゃんの住む魔界を赤井さんと一緒になって探してたくらいだし」
「そうだったの?」
「ああ、赤井さんと一緒に魔界を見つけて、シエラちゃんを連れ戻そうとしてたんだ」
「
「ですよね、今考えると自分でも驚きですが、シエラちゃんが居なくなってからはシエラちゃんの事しか考えてなかったですから」
「先生……ありがとう、凄く嬉しい」
「でも、本当にお父さんに反抗して出て来て良かったの?」
「こうでもしないとこっちには戻って来れなかったし、それにこっちでまた一生懸命勉強をすれば、お父様もきっと認めてくれると思う」
「そっか、だったらまた一緒に頑張って勉強をしよう、お父さんに認めてもらえる様に」
「うん、先生と一緒に頑張る」
「及ばずながら、私も協力させていただきます」
「いえ、とても心強いです。またよろしくお願いします、シルフィーナさん」
「よろしくね、シルフィー」
「はいっ! 精一杯協力させていただきます!」
こうして愛しのシエラちゃんが魔界から戻り、俺の心はようやく心の平穏を取り戻した。
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