第37話・あくまでも君が好き

 教室で一人残って作業をしていたシエラちゃんが椅子から足を滑らせたところを抱き止めた俺は、その背中に黒い羽と蛇の様に動く尻尾があるのを見た。


「えっと……その黒い羽と尻尾は何かな?」

「何って言われても困る、羽は羽だし尻尾は尻尾だから」


 ――そりゃそうだよな。


「あー、質問の仕方が悪かったね、その羽と尻尾はいつの間に付けたの?」

「この羽も尻尾も、元々付いてるものだよ? 普段は見えなくしてるだけで」

「見えなくしてる? どうやって?」

「私の魔力で」

「魔力?」

「うん」


 短い返答をするとシエラちゃんの背中にある羽が動き始め、その小さな身体が宙へ浮かび始めた。


 ――待て待て待てっ! これは現実か? シエラちゃんが悪魔? まさかそんな……。


「そ、それじゃあさ、俺とシエラちゃんが結婚した事になってるのは、もしかしてその力を使ったから?」

「うん」

「入学式の日に何のお咎めもなかったのも、不思議研究会の顧問に選ばれたのも、リリーを預かる事を大家さんが認めてくれたのも、シエラちゃんがその力を使ったから?」

「うん」

「本当に?」

「私は嘘なんて言ってないよ? それに私、先生にはちゃんと能力ちからを使ったって言ってたよ?」

「た、確かに言ってたな……それじゃあもしかして、シルフィーナさんも悪魔って事なの?」

「うん」


 唐突に思ってもいなかった真実を知り、俺は頭が混乱していた。しかしこれまでにあった不可思議な出来事などの結果を考えると、シエラちゃんの言っている事にも納得できる気はした。


「もしかして先生、私が悪魔だって事を信じてなかった?」

「あ、うん……ごめん」

「……ねえ先生、私が悪魔だって分かっても好き?」

「もちろん好きだよ!」


 頭の中はまだ混乱していたけど、シエラちゃんを好きだという気持ちに一切の偽りや迷いは無い。


「そっか、それなら良かった」


 シエラちゃんは俺の返答を聞くと小さく息を吐き、安心した様な笑顔を浮かべた。


「シエラちゃん、とりあえずは家に帰ろう。その姿を他の人に見られでもしたら厄介だから」

「うん、分かった」

「その羽と尻尾は隠せるんだよね?」

「そうだけど、今は隠せない」

「隠せない? どうして?」

「魔力が上手く制御できないの、だから羽も尻尾も隠せない」

「そうなのか……それじゃあ仕方ないから、俺のジャケットを着てもらって隠そう。あとは俺がフォローするからさ」

「うん、ありがとう、先生」


 こうして俺はシエラちゃんと一緒に学校を出て自宅へと向かい始めた。

 なんだかやましい事をしてるみたいでハラハラするけど、シエラちゃんが本物の悪魔だと周囲に知れたら厄介な事になるのは目に見えている。だから俺はなんとしてもシエラちゃんを守りたかった。人間じゃなくて悪魔でも、シエラちゃんは俺の大好きな女の子だから。

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