く〇〇司鉄道株式会社

喜多ばぐじ ⇒ 逆境を笑いに変える道楽家

鉄道は

二両編成の特快速列車が、目にもとまらぬ速さで眼前を通り過ぎた。


下の階層では、丸い円盤型の各駅列車が、亀のような速度でトボトボと進んでいる。


各駅列車に乗るのは簡単だが、特快速列車にこそ価値がある。


目を凝らし、もう一度、チャンスを伺った。


ブゥォーーーン


かすかな音が、左方向から聞こえてくる。


来た。特快速だ。


しかし、今回も、目にもとまらぬ速さで眼前を通り過ぎた。


反応することさえできなかった。目の前を通っているのに、決してつかみとることはできないのだ。


打球速度が速すぎて、三遊間のあたりに一歩も動けない遊撃手なのか、私は。


周りでは、赤ん坊や子供がわいわいとはしゃいでいる。

しかし彼らの目的は、特快速列車ではない。


各駅停車に5度乗り、ガチャが引くことができれば本望なのだから。


また、年配の方は、開発された新車両のような高価なものに乗車することが多い。

装甲が2倍になっているらしく、価値は2倍だが、価格も2倍だ。

いずれは、赤い彗星のように3倍になるのかもしれない。


しかし、あくまでも私のターゲットは、特快速列車だ。

私の駅に特快速列車が止まる可能性はないとわかっていても、万に一つの乗車に賭けたいのだ。


絶対に、諦めない。細い目をさらに細めて、もう一度眼前に集中する。


次の特快速列車こそ、つかみ取ってやる。


目の前を見つめたそのとき、反対側のホームの女性と目があった。


その瞬間、恋が芽生えた。


芽生えた瞬間、特快速列車が通り過ぎた。今回も失敗だ。


―――――――――――――――――――


もう諦めよう…


私が特快速列車に乗るなんて、考えが甘すぎたのだ。


あの列車は、「選ばれし者」しか乗せてくれない。


ポケモンで例えるなら、ピカチュウに選ばれたサトシ、デジモンで例えるなら、アグモンに選ばれた太一だ。


諦めようとしたその時、目の前の液晶に、とある呪文を入力したのだ。


すると、左奥の倉庫がざわつき始めた。

SNSでバイトテロは絶対に起こさないと決意しているであろう社員たちが、必死に列車を製造している。


来る。そろそろ、来る。


今度こそ、チャンスをものにしてやる。


3分後、目にもとまらぬ速さで、左方向から特快速列車が走り出した。


無理だ、今回もつかみ取ることができない...


そう思った瞬間、特快速列車・かっぱ巻きは、私の目の前で止まったのだ。


この感覚、この感動... カタルシスとでもいうべきか...

だから私は、この会社が大好きなんだ。


「`くら寿司`鉄道株式会社」安価で新鮮な魚類を運んでくれてありがとう。



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