二話
幸子と美音子がとくに仲が良かった期間は中学生の頃だった。
勉強のできない幸子と勉強のできる美音子が一緒にいるのは今考えると奇妙な風に見られていたかもしれない。
幼馴染であることを伝えると納得してくれる。
幸子は中学の頃、いじめにより不登校になったことがある。
美音子は幸子の側から離れなかった。
それは美音子が初潮を迎えた時、側にいた幸子のように。
幸子はこのとき思った。
――どうして、私は男に生まれなかったのだろう。
幸子が子供の頃はまだ同性愛が知られていなかった。
だから、幸子は中学生の頃、男になりたいと思うようになっていた。
――男だったら幸子に思いを告げられるのに。
しかし、果たしてそうだろうか。
幸子が男だった場合、仮に、『
最初から男の幸男は美音子に思いを告げられただろうか。
そもそも幸男だった場合、美音子を好きになったのだろうか。
幸子は頭の中でぐるぐると考え始めた。
もしものことを言っても意味はないが、考え込んでしまうのが幸子の悪いくせだった。
同性愛に少しずつ寛容になってきた時代だ。男だ、女だで悩むのはなんだか違う気がする。
恋愛というものはいつも誰にだって平等に壁を作ってくる。
それを乗り越えて初めて恋愛が成就するというものか。
幸子が考え込んでいるときにまた電話があった。
今度は美音子からだった。
幸子は心臓が飛び出しそうになった。
「も、もしもし! どうしたの?」
『ねえ。明日会わない?』
美音子から思ってもいない提案をされ、幸子の心臓がまた飛び出しそうになった。
「う、うん! 良いよ! 明日何もないし! おっけー。じゃあね」
幸子は無理して明るい声で言った。
何もないというのはウソではない。
そもそも幸子は現在、働いていなかった。
本当のことを言えば、いつでも休みなのであった。
働いていない罪悪感が幸子を蝕んでいた。
――美音子だって働いているのに私は……。
さっき、約束したばかりなのに幸子は突然憂鬱になった。
――会いたいのに会いたくないな……。
みすぼらしい自分を美音子に見せたくない。
誰にも見られたくないのが本音だった。
幸子の人生は失敗だらけで、現在に至る。
それでも幸子は不思議と前向きに生きていた。
――やっぱり美音子に会いたい。会って20年分の思いを伝えよう。
幸子の立ち直りは早かった。
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