僕と父ちゃん

アノマロカリス・m・カナデンシス

第1話 屁理屈

『日は、また昇る』


夕日を見つめながら、ダサい台詞で落ち込むボクを慰める父ちゃん。


父ちゃんは、ボクの得意技を知らない。

“ザ・屁理屈”


『日は、昇らないよ』

『何言ってんだ。朝になれば、ちゃーんと太陽が昇るじゃないか』

『太陽が昇ってくるんじゃない。地球が回ってるだけだ。太陽は動かない』

『まぁ、そりゃそうだけど。便宜上な』

『便宜って、真実を歪めるね』

『何を小難しく考えてんだ。皆、知ってんだ。そんな事。だけど、地球が回ってる、なんて実感できるヤツなんかいない。太陽は、昇って来るように見える。それでいいじゃねーか』

『そうだね』



と、答えたが、納得はしていない。

分かってはいるよ。

“地球が回って、また太陽が見える位置まで来たぞ”

なんて、様にならないもんね。

だけど、どうしても納得いかない。

事実じゃないのに、そう見えるからそれでいい、なんて。

皆は真実が分かっているからそれでいい、なんて。


言葉って、難しい。

でも言葉って、楽しい。


『じゃ父ちゃん、もう日が沈むから、家に帰ろう』

『お?日は沈まないぞ』

『便宜上、だよ』


ボクは何時までも考え続ける。

真実を的確に表現しつつ、様になる言葉。



言葉って、楽しい。


 

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